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第13回小説現代長編新人賞
1次・2次選考通過作品の講評

第13回小説現代長編新人賞
1次・2次選考通過作品の講評

平成30年1月末日の締め切りまでに、郵送とWEBを合わせ995編の応募があった今年の新人賞は、1次選考の結果、下記の198編が第1次選考を通過しました。続いて2次選考の結果、太字で示しました17編が選ばれました。以下、応募タイトルと講評を記します。なお、本誌「小説現代」7月号(6月22日発売予定)に3次選考の講評、8月号(7月21日発売予定)に、受賞作品と選考委員選評を掲載いたします。

モノクロ 相沢健二(埼玉県)

埼玉県警捜一の女性刑事が臨場した殺人現場の第一発見者は、女子高生二人。被害者の中年男性の慎ましい生活の奥に潜む「闇」の顔とは。初々しい筆致で、警察小説としてもすがすがしく読める作品だ。

命の重さを抱きとめて 阿浦みなみ(神奈川県)

お客様の中にお医者様はいませんか? という出だし、颯爽と登場する外科医。そしてその医師は大地震に見舞われたネパールへ。期待はふくらむが、以降のネパールでの活動は多少の起伏はあるものの盛り上がりに欠ける。医師の領分としての人間ドラマを読みたかった。

明智と天海の二重奏 蒼井りゅう(千葉県)

静謐な本能寺の書き出しは秀逸。犯罪捜査の歴史を再調査するという歴史探偵クラブの設定はありきたりな印象だが、とにかく縦横に移動するカメラ視点での歴史解説は好感が持てた。ぜひ真正面から時代小説にも挑んで欲しい。

僕の街の怪談話 青山幸世(栃木県)

それなりにおもしろく読める話ではあったが、このレベルでは突破できない。デビューを目指すなら、もっともっと楽しませようという意欲を。

ピッチャー代わりまして、下請け 赤木公一(東京都)

(おそらくは)近未来のプロ野球選手には、正規契約選手と、非正規契約の派遣選手=下請けがいる、という設定で、まずその設定が新鮮。書き手の野球に対する想いが伝わってくるところはいいのだが、もう少しディテールを書き加えて、物語に厚みを出したほうがいいのでは。

廃校ノート 茜丸英司(宮崎県)

落ち着いた淡々とした書きっぷりはよかった。古典的な設定を先へと読ませる力があったのだが、よくある話で終わってしまったのが残念。

アニメの藻屑と消えろ 秋川秋(東京都)

お仕事小説としてすらすらとストレスなく読める。が、アニメ製作会社についてなど、耳新しいことは書かれておらず、主人公がただ愚痴を言っているだけに終わっている。書く力はあるので、次作に期待します。

ユレルサンカク 秋沢一氏(神奈川県)

小説には必ず「奇妙」な部分がなくてはならない。そうでなければ、どこかで見た、聞いた、体験した話を追体験するだけのものになり、人はお金や時間をそういったものには使わない。

九〇式人生プラン 秋吉福朗(奈良県)

極端に金持ちで万能の天才という主人公の設定が面白かった。その主人公が、病気の弟のために高校を辞めて……という冒頭にも惹きつけられる。その後は話の焦点がぼやけてキャラクターも普通になってしまう。

棚から煎餅 熱川博文(神奈川県)

母の急死後、頑固一徹の煎餅職人の父を手伝う、三代目の青年の物語。仕事系成長小説で気持ちよく読める。店が人気歌手のプロモーションビデオの撮影現場になるというのがアイデアだが、煎餅屋という点を除くと、どこかで見たような、新鮮味が薄い作品であることも否めない。

死の女 足立皓亮(兵庫県)

出会い系サイトの運営会社に勤める主人公が惹かれた女性の胸には、自分で傷つけたと思しき「死」という文字、身体には無数の自傷の跡があった――。その女性の得体の知れなさに惹かれていく主人公の心情が丁寧に描き出されている。女性のキャラクターはもっと書き込んだほうが良かったのでは。

伝説を紡ぐ人《鬼神降臨の巻》 亜月文具(東京都)

織田信長を始めとする戦国の人々の造型が軽く、読んでいて納得いかなかった。会話も軽い。従来の戦国小説とは、違ったイメージを打ち出そうとしたのかもしれないが、成功していない。メインの事件が小さく、しかも史実とあまり絡まない点も残念だった。

嘘つき三月 秘密の四月 天音美里(北海道)

小説としての形は整っているし、すらすらと読ませる。が、ヤンキー気質な父、そんな父の幼馴染みでゲイの友人が同居して母親代わりとして家事を担ってくれている疑似家族状態、支えてくれる心優しい恋人、母親を「失った」喪失からの再生、家族の秘密、という全てが既視感がある。文体やエピソードに個性的な魅力をどう出していくか、よく考えて。

人体衛星「薊君」 雨柳知畝(京都府)

最初はそのあまりの奇想天外さに?、癖のある語り口に?、となるのだが、いつしか物語の世界に引き込まれている。ミルクレープのように何層にも重なったこの世。四枚目は畜生世界、二枚目は人間世界、五枚目は餓鬼世界……。天衣無縫、縦横無尽の世界は、物語が進むにつれクセになってくる。ヘンテコな物語なのだけど、実はマンガ愛に満ちたボーイミーツラブ!

あすなろの家 新井ヨシコ(福島県)

物語の世界に自然に入っていける冒頭部がいい。しかし、姉の話だと思って読んでいくと妹の視点もあり、また、高齢者たちの過去もそれぞれの視点で書かれているので長編小説としてまとめきれていない印象だ。姉妹の葛藤など現在のドラマをもっと用意してほしかった。人物名がすべて片仮名なのは読みにくい。

女王の遺言 在藤鍵(大阪府)

物語の語り手は、同窓会に出席する元同級生たちの視点で次々に変わっていく。彼女と自分の関わり合いが語られていく中で、彼女が「特別」で女王であったという意味が徐々に明らかになっていく。多人数の視点で特定の人物を語るという構成は珍しくないが、この先一体どうなるのかというページを繰らせる力、興味を持たせるテクニックは十二分にある。

マイチルド 池田蕉象(神奈川県)

若い書き手ならではのオリジナルな発想があった。うまくかたちづくれておらず、長篇小説に落とし込めていないが、胸に残るものがあった。

せん 石田学(神奈川県)

堂々たる青春小説であり恋愛小説だった。でも文章も展開も、もっと面白くできるはず。書くことで伸びるので今後に期待したい。

偽りの青い花 市来千剛(静岡県)

冒頭の「孤独な木」の部分に、この筆者の個性が捉えたいもの、描きたいものが凝縮していると感じた。残念ながらその試みは成功していないが、次作に期待したい。

海に書く 伊藤美穂(長野県)

どうしようもなく身持ちの悪い大学講師につきまとわれる女子大生。日記形式での語り口は、ある種の犯罪小説のようで緊張感を醸せて新鮮だ。救いようのない脇役をきっちり描きあげるのも、一つの文才だ。

道頓堀浄瑠璃 井上蜻蛉(広島県)

丁寧に書かれた歴史小説で、好感が持てる。ただ、一本調子なので、読んでいるうちに飽きる。竹本義太夫が浄瑠璃の神髄を見つけるところがクライマックスなのに、その後が長すぎる。小説の基本はできているので、これからは場面の省略や、エピソードの強弱に気をつけるようにしたらよい。

0と1の間 伊野瀬優(東京都)

文章はト書き風で味気ないし、やせ細った脚本のような小説。分裂した人格の葛藤劇はいまさら驚かない。映画『アイデンティティー』のような傑作がハリウッドで撮られている以上、どう面白く見せるのか、どう深く主題を掘り下げるのか、そのためにはどのような語りの技術を持ち込むべきなのかをもっと考えないといけない。

音の名の君は 今泉慧(東京都)

一人称での語りの描写、文章の書き方は他の作品にはないものを感じた。しかし、小説のネタは短編のようで、長編としては展開が遅くて冗長に感じてしまう。オチも意外性はない。どのようなお話を書くのか、というところで思考を深めて欲しい。

仁義を刃に載せて 今桐継(東京都)

年齢のわりに時代小説を書き慣れている印象を受けるが、話の焦点がぼやけてしまう構成の甘さが気になった。エピソードの取捨選択にもっと時間をかけると、格段に読みやすくなるはず。渡世人飛脚という希有な仕事は興味深いので、その点をもっと掘り下げると読み応えが増したのでは。

十字架を背負った交渉人 今桐継(東京都)

テーマの扱い方、話の構え方、かなりの伸びしろを感じる。気になったのは、こちらの理解にはかまわず話を進める強引さだ。描写も乏しいので話の展開がよく見えない。力はあるので次作に期待。

弟子にござる 今福慶一郎(埼玉県)

楽しい小説だった。身分を隠して市井に溶け込む武士の話は様々思い当たるが、娯楽小説としては成功していると思う。時代小説の文章としても違和感がなく、文章も書きなれていて上手い。シリーズ化もできそうだし、映像も頭に浮かぶ。難をいえば、物語のスケールがやや小さいことか。江戸の市井ものでなく藩を巻き込んだ展開なら、何かもうひと工夫、波乱があってもよかった。

ワンダーランドの蜂 岩井圭吾(神奈川県)

北海道のハチミツ工場で住み込みバイトをする若者達の物語。文章はとても読みやすい。ただ、ひたすらに淡々と、日常描写が続き、「コップの中の嵐」ですらない。本当にこれが書きたかったの? これでデビューしたいの? と心配になった。

指先に泥 岩井圭吾(神奈川県)

文章が上手いので読めてしまうのだが、結局のところ主人公二人のどんな物語が描きたかったのか、最後まで掴みきれなかった。彼らの内面の葛藤などにもっと踏み込んでもらいたかった。次回作に期待します。

冥官 竹の下のすめらぎ 上松一彦(東京都)

昼は朝廷に仕え、夜は閻魔庁に勤めていた平安時代の役人・小野篁の物語。冒頭、地獄の場面はちょっとわくわくし、小野篁のとぼけた感じは若干期待が持てたが、すぐさま史実に基づいた伝記スタイルに路線変更。史実を辿りやすいからという理由はよく分かるが、婚姻の話を中盤まで延々とされても困る。これだったら短くまとまった歴史書を読んだ方が、ドラマの密度も高いし効率もいい。

ガ鬼ノ城 卯川枝奈(兵庫県)

絵師の狩野家を継いだ主人公と石燕の関係を通して、天才と凡才、伝統(家の芸)と革新という、芸術の根幹に関わる問題を問う。京極夏彦を思わせるような文体を、最後まで保たせた力量は買えるが、誰の台詞なのか判然としなくなる箇所があり、停滞する。内省的な描写が多く、もう少し動きが欲しい。

安達計画 内田誠(神奈川県)

オーパーツであるブルーストーンには、古からのメッセージが込められていた――旧人類、人類移住、クローン、スーパーコンピューター、等々、オーソドックスなガジェットを用いて描かれた「地球再生計画」をテーマにしたSF。丁寧な語り口、文章のリーダビリティは水準に達してはいるものの、全体に既読感がある。

ピエタ 内海ユキオカ(東京都)

母親からのプレッシャーや将来への不安に対する主人公の苦悩がよく書けている。脇役の絡み方もほどよい印象。一方で圭輔が晶子を最初に助けるところは強引過ぎるし、晶子が圭輔を部屋に入れるのも簡単過ぎるのでは。結末に救いがなければダメということはないが、読後感が悪いのは過程に問題があるからだろう。

心に羽を 手のひらに知を 海土小恵(愛知県)

いい話だった。仕事の内容もよくわかる。しかし熱がない。主人公の感情が伝わってこない。主人公自身が冷めた眼で物語全体を俯瞰している印象。会話はいいし、描写も今風でうまい。小説の強度は、人物が◯◯したいと思う、その欲求の強さに比例する。出来事が小さくても、その人がものすごくこだわっていればその達成感はすごいもの。感情を書いた作品をまた読みたい。

手白香皇女 梅前佐紀子(東京都)

題材に対する書き手の愛着を感じた。物語のつくりの丁寧さもあったが、そのぶん読み手を選んでしまう弊害も出てしまったか。

上海少年 梅村真司(上海市)

素朴なテーマに朴訥な文章で好感をもった。ただストーリー展開は弱い。もっともっと読む側を楽しませることを意識してくれれば。

はるか、ウルトラマリン 梅村ともひろ(愛知県)

詐欺師まがいの父の仕事を恥じている八歳の主人公が、画家になる、と決意する導入部分から物語に引き込まれた。ギルランダイオの工房に入り、弟弟子の天才・ミケランジェロやラファエロなど実在した人物を巧みに生かし、名も無き芸術家を描いている。画家としての腕を見込まれたのではなく、画材となるラピス・ラズリを手に入れるという使命に対する屈託と苦悩、かけられた疑惑などドラマティックに展開している。主人公が恋心を抱く娼婦の半生や、父の真実なども的確にまとまっていて読み応えがあった。

桐と鷹 花の橘(東京都)

よく勉強していて、創作に対する熱意を感じた。ただ偉大なる先行作があるなかで、書き手ならではの独自性までは感じられなかった。

極彩色の進化論 焉堂句遠(東京都)

軽妙に現代を活写した、と言えば聞こえは良いが、内容も終始、浮薄であった。こういうものに共感できる人間は、お金を出してまで読みたいとは思わないだろう。

雪が消えたら 押見しほり(北海道)

内容の激烈さに比して、静かに穏やかに語られていく物語は、前半部こそ緊張感が漲ってぞくぞくさせるが、それがずっと同じ調子なので飽きてしまう。いわゆる「転」の部分の構成をもう少し考えてほしい。文章は悪くないし、キャラクターやエピソードも描けて十分に面白いのだからもったいない。

やまんばさんとぼくたちの夏 大原藍(福島県)

中三の公太が転校してきた母の故郷でもある村には、山姥の少女がいた。道祖神が壊され続けるこの村での奇妙な事件に立ち向かう主人公たちの戦いの記。若干、ゲームもの的な荒っぽい描写もあるが、YAとしてなら十分楽しめる。

辺土 岡坊栄(兵庫県)

細やかに描かれた家族小説だが、いかんせん新味に欠ける。名作と言われるさまざまな小説を読んで、人物と出来事の掘り下げ方を研究されたし。

ゼアミ 岡本佳之(山口県)

作者はプロレスが大好きだというのは伝わってくるし、試合シーンや団体の経営シミュレーションも楽しい。ただ、「あたい」を一人称とする人物が出てきたあたりから、キナ臭くなった。マンガっぽさが閾値を越えて、いくらなんでも、の世界に突入してしまう。

甘い料理 小川稲穂(東京都)

主人公の心情と会話だけで物語が進んでいくため、非常に薄っぺらい。小説らしい描写がないからだ。場面転換も唐突。さらに職場でのトラブルが取って付けたようで白ける。そして後半、息切れが目立つ。

七月七日、千本鳥居の石段でキミと出逢った 小川みゆき(山梨県)

新海誠や岩井俊二のフレーバーをなぞった勘違いラブコメ。ただし「勘違い」の歯車の動かし方が乱暴で、読み手を物語にフックしていく感触が弱い。どんなに主人公がちやほやされても、読み手は置いてけぼり。だが、なんともいえぬ魅力がある。

天平疾走 音波よう(兵庫県)

文章が平易なのはいいけれど、重々しい物語を狙っているわりには軽く流れ(会話も)、歴史小説というよりラノベに近い。人物も記号の域を出ておらず、ドラマが読者の胸をうたない。作者が天平の時代に遊びたい気持ちはわかるが、作者が物語に何を託しているのかがわからない。いまの人々に何を伝えたいのかが。

楽園の蛇 織坂詩音(愛知県)

この世界と似た、別の世界を舞台にした理由はどこにあるのか。“万能元始”というメイン・アイデアを、詳しい説明なしで成立させるために、都合のいい世界を用意したとしか思えない。したがって作中の出来事やエピソードに興味が持てなかった。それから、登場人物に変な名前をやたらと付けるのは、止めた方がいい。

チャイナ・ドレスのカジノ王 尾張大洋(愛知県)

ディテールにリアリティがあった。近未来の話を書くときに必要なものだと思う。ただ、どうしても全体的な古さが気になった。それから、「…」が会話で多出。まず書ききってから、効果的に使って欲しい。

流レニ逆ラフ者 片岡継三(神奈川県)

三成、吉継、五助、三者への愛を強く感じた作品。状況説明を地の文章でなく、それぞれの登場人物たちにもう少し語らせて欲しかった。

マイ・スイートライス 香月うたね(和歌山県)

爽やかで正しい物語。さんざん語られてきたこの手の物語の、新しい魅力となるものは何か。ぜひ次作ではそれを見せて欲しい。

昭和一桁の歴史 加藤八一(愛知県)

主人公が生まれた昭和一桁から昭和の終わりまでのクロニクル的小説だが、大きな盛り上がりがないまま、時系列で淡々と描いてしまったのは惜しい。著者が一番、人に語りたい部分をもっと強烈にアピールすべきで、娯楽小説として楽しむことができなかった。文章は非常に読みやすく、エピソードひとつひとつを連作短編的につくると効果的だったと思う。

きみはオフィーリアになれない 門野将史(東京都)

異世界にとんだり、現実の世界に帰ってきたりするルールがもうひとつわからない。それが恣意的になっているために、人物の行動に制約が生まれず、ドラマも切実なものにならない。作者の都合で人物を動かしてはいけない。

愛といえるだけの恋をして 金丸与志生(島根県)

第一話から第四話までの構成が、うまくおさまりきれてなかった。それぞれ描かれる男女のつきあいかたやセリフがスタイリッシュだったぶん、惜しい。

sweet my home  神津凛子(長野県)

じわじわと主人公たちに忍び寄る影。ホラーの定石をきっちりと押さえた構成に、物語が進んでいくにつれ、次第に引き込まれる。精神疾患のある兄、という設定が後々効いてくるのもうまい。バッドエンドのラストも、ホラーの勘所をうまく押さえている。

罪と罪 上栁政雄(神奈川県)

日本の青年とヴェネズエラの青年の友情がバッティングセンターで育まれるという舞台は魅力的だ。状況からどちらの国も退廃的であるのに、ふたりの関係は牧歌的で小説の雰囲気がとてもいい。途中のWiki的な説明と、夢の部分が長すぎるので、この部分は整理した方がいいだろう。解決すべき伯父の問題について、もう少し突っ込んだ記述が欲しかった。

我らがホームズはチーズバターサンドがお好き 川奈之晃(東京都)

タイムスリップものとしてはアイデアがありきたり。ホームズの力を借りて推理するなら、元の作品をもっと利用すべきでホームズの登場場面が少なすぎる。事件は複雑でよく考えられており、推理の過程も面白い。謎解きを語りだけで説明するのは、途中の伏線が印象的なものでないと理解しづらい。脇役をもっと効果的に使えば読み応えのある作品になったと思う。

おとなの勲章 河村誠一(千葉県)

非常に地味なテーマを上手くまとめたと思う。進学学習塾の教務という視点から教育業界を見たうえで、講師たちのキャラクターを上手く使い、その上、高度成長期から現代まで教育業界を俯瞰しているのは興味深い。教育とギャンブル依存と対照的な現実が刺激的である。平凡な主人公が友情を感じる相手の魅力がいま一つで惜しい。

日ノ出ハウスルール かんじろう(大阪府)

足立区にある「最安値のシェアハウス」では、一部屋に四人の男達が住んでいる。その初期設定の提示から、四人のそれぞれのライフストーリーへと展開。個を描くのは別にいいが、個に個をちゃんとぶつけないと、この設定である理由や小説としての面白味が出ない。意味ありげな「……」に頼らず、会話を丁寧に書くべき。

雨があがれば 神田彩子(静岡県)

少年時代の悩みと成長を描いたのち、大人となり今度は教師となって少年少女を見守る。正統派のビルドゥングスロマン。その一本通った筋にブレはない。が、あまりにブレがないゆえに主人公の新たな魅力が見えてこない。もっと色々なタイプの人間を見て、書いていくべき。

皇軍の式神 管野ユウキ(神奈川県)

死者の姿を見る異能力者がもしも第二次大戦下、戦場にいたらどうなるか。なるほど。ただ、戦場で日本兵が「異能」という言葉のやり取りをする不思議は拭えないし、冒頭の「見えるというのはちょっと違うかも。感じるというか……つまり、視えるんだ」というセリフの時点で読み手を置いてけぼりにしている。声に出したら「見」も「視」も同じです。

個性のないわたし、個性のある百人の人たち 戯画葉異図(神奈川県)

全編が「〇〇な人」という小さな章で構成されている。その面白さが目を引いたが、なにぶんにもひとつひとつばらばらで、有機的に構成されていないので話が見えてこない。

新人種の娘 如月あこ(京都府)

すごく難しいことを書こうとしている。その心意気は素晴らしいと思った。でも読ませるのは本当に難しくて、その壁を乗り越えられなかった。

HERO 貴志祐方(兵庫県)

中学生のクラスカーストを描いた作品だが、主人公の少年や担任の教師が善人過ぎるのが気になる。事象の説明的な文章が長すぎて、メインのストーリーを見失いそうになる。刺激だけを求めて安易に売春問題を絡める必要はないのでは。「それはないだろう」と思わせるような強引な筋の展開は読者を醒めさせてしまう。ストーリーの運び自体は悪くないので、構成の見直しが必要。

彼女はそれを隠してる 城戸まさき(奈良県)

初めて書かれた小説とのことですが、文章は読みやすくちゃんと小説の形になっている。ラストで驚きを作ろうというサービス精神も○。しかし、終盤駆け足になってしまったのが残念。物語の構成と全体のバランスに意識を。

怠惰、現在進行形。 GAG(岡山県)

主人公たちの軽妙なやりとりは、遊びが利いていて楽しめた。ただ、いかんせん設定が小粒。結末が見えやすく、この分量が必要かと言えば「?」。デビューを目指すなら、もう少し大きなテーマにチャレンジしてもよいのではないだろうか。文章を紡ぐ力や器用さは十分に認められるので、今後に期待したいところ。

交換殺人しませんか? 桐島裕(愛媛県)

小説の形にはなっている。交換殺人を持ちかけるところまでは良かったが、登場人物が多すぎる上、話の構成が複雑すぎたのではないだろうか。また、展開や設定に突飛なところが多かったのも難。

毋望の人 金田一淳(青森県)

御維新のあと、下北半島斗南に流された旧会津藩士とその家族の、苦難の人生を、十歳の次女の視点から描く。壮大な時代小説ではあるが、歴史的事件に遭遇させるには市井の登場人物との釣り合いに無理があるような気がする。

海の彼方の虹の端 楠木真ノ介(兵庫県)

語り口が楽しげであるが、気分が乗らない。ストーリーはいきあたりばったりだし、キャラクターも統一がとれていない。人物をもっと整理すべき。何を書きたいのかが明確ではない。タイトルも一考の価値あり。

涙の味に変わるまで 九頭竜正志(福井県)

核シェルターでの男女の相克を描く、心理小説。偶然が起こす閉ざされた空間での一年間の葛藤劇。設定ありきの展開の割には、登場人物の作り込みが作者都合にすぎるきらいが。クライシス脱出こそがテーマだったのでは。

遠く哭きてか ぐぢら屋幾夜(福島県)

なんとも言えない味わいがあった。これは小説なのだろうかというボーダーラインを考えさせられ続けたが、評者は点を落とした。

コールセンター 桜田通りの変 九月十愛(東京都)

ストレスなくさくさく読むことができた。文章は非常に上手い。ただとてもありがちな展開で、先が読めてしまう。ダメなヤツが最後までダメでは救いがない。どこかで読み手を裏切る仕掛けが欲しいし、それぞれのエピソードは大げさに変化を付けないと、同じことを読まされている気分になる。作者は意地悪な目を持つことが必要。

ペルソナリティの練度 九法つかさ(熊本県)

なんなんだ、この話は、と引き込まれた。ただ書き手の都合で物語が展開していくので読む側が置き去りになり次第に飽きていってしまった。

貧者の一灯 ――米本土を爆撃したパイロットの戦後―― 倉田耕一(茨城県)

リアリティ抜群で、主人公のような人物が実在したかもしれない、と思わせる説得力があった。ただ、あまりに都合よく運ぶ展開や、登場人物の感情が見えにくい点が気になり、すっと物語に入っていけない硬さを感じた。

鬼心中 倉谷山椒魚(東京都)

飾りすぎ工夫しすぎで、逆に文章が分かりづらく、また視点が揺らぐなど技術的には未熟な部分もあるが、それを上回る不思議な魅力があった。足先を失った「人魚」と呼ばれる女形の役者と、純朴な鳥屋が探偵役となり、芝居小屋の「鬼退治」に乗り出す、という話も個性が光る。役者たち、それぞれの心情や「鬼」の解釈などもなるほど、と感心させられた。物語を創るというセンスのようなものが感じられる。

泡沫の語り部 倉辺留衣(東京都)

大きなテーマに正面からぶつかっている点に好感をもったものの、この書き手にしか辿り着けないだろうという、数多くの先行作との違いを見出せなかった。

漫画で描く青春 黒崎詩風(千葉県)

漫画同好会メンバーたちの高校生らしいシーンがいきいきと表現されていた。漫画制作の過程をもっと多く書き込めれば、なお良かった。

僕が殺し屋だった季節 黒原ひおり(千葉県)

家族再生が主題の青春小説と、「殺し屋」のバイトというギャップが、作者のアイデアであろう。だがギャップがあればこそ、小説ならではの「リアリティ」がなければ単なる絵空事に終わってしまう。技術不足がはなはだしい。さらに横書きゴシック行間ギチギチという、応募要項に外れた印字はそれ以前の問題。

ブラコンダイアリー 源堂(兵庫県)

文章はこなれた筆致ですらすらと読ませるが、物事のディテールが荒いというか甘い。シリアスになりすぎず、死期の近い人間を描くのは難しく、物足りなさは否めない。一度も会ったことのなかった兄に、どうしてそこまでして会いたいのかなど背景が薄いことが、話が浅く感じる原因かと。

諸国民の父 恋塚りも(大阪府)

『聖書』にあるアブラハムの人生を描いた物語。独自の要素も入れられているが、ストーリーの面白さが、『聖書』に寄りかかっているように見える。終盤でアブラハムが得た理解など、もっと強く打ち出してほしかった。また、今の日本人がアブラハムの物語を読む意味がどこにあるのか、この作品では、いまひとつ分らなかった。

お庭番外伝 ――鬼薊始末記―― 高妻京子(宮崎県)

キャリアが浅いわりによく書けている。太平の世、戦国忍者の気風を漂わせる主人公の造形はよい。最後に主人公の出自や因縁がわかり、各エピソードにゆるいつながりもあるとわかるのだが、どのエピソードも力が足りない。敵役が弱く、主人公が窮地に陥るところがないという、本作品一番の問題につながることでもある。目立つべきでない稼業なのに、派手な格好をさせるのも疑問。

藤子の俳句手帳 小島なみ(神奈川県)

俳句を題材とする小説なのに、俳句が数えるほどしか出てこない。しかも出てくる俳句がつまらない。俳句で人物の個性を描くという視点に立たなくてはいけないのに、俳句を作れないからそういう視点にも立てない。俳句サークルという舞台にまったく必然性がない。

未完成ノスタルジア 小松雅(神奈川県)

ナイーブな筆致は作風にとても合っている。大学生同士の会話も優しく瑞々しい。旅や物語、音楽が、ある女性の死の謎を追うキーになり、ミステリー的な楽しみ方のできる作品。惜しむらくは、物語のガジェットが“この手の話”によくあるものになってしまっている点。

倭ばなし 今野明(福岡県)

書き手にとっては得意の題材であろう昔話に、コミカルな要素を入れることでオリジナリティはあった。だが突き抜けるところまではいかなかった。

平成忍者とカラクリ島 齋藤祥教(青森県)

作者はプロットを立てた時、非常に面白い作品になると思ったに違いない。現代に生き残る忍者たちが隠し遺産を取り合う物語を作るはずが、キャラクター作りに熱が入り過ぎ、根本のストーリーがおざなりになってしまった。笑いの要素を入れようと変なキャラクターを突然入れるのもマイナス。せっかく作り上げたキャラクターが絡み合わず、結末がすっきりしない。

猫が泣く 斎堂琴湖(埼玉県)

しっかり書けていると思った。その分というか反面というか、引っかかりどころがなく、すーっとすぎてしまう。冒頭に(派手さという意味ではなく)強さ、パンチがほしい。それが読んでいくための興味の源泉になる。

終息活動 作良咲(大阪府)

独特の文体と思想に基づいた作品で異彩を放っていた。ちょっと歪んだメロドラマのようなストーリー展開も、ページを繰らせる推進力になっている。もう一歩、普遍的なテーマを滲ませていたら、より興味深い作品になっていたのではないか。

狂気乱舞 櫻井洋(神奈川県)

武士の時代が終わってもなお、荒ぶる魂を持てあます若者の熱情が勢いよく描かれる。実際の事件を飛躍させたアイデアもよい。ただ、勢いに任せて時に展開が雑、また都合よく転がっていく嫌いがある。サービス精神と丁寧なドラマ作りのバランスを考えてほしい。

カメ子は走る「湯けむり事件簿の巻」 桜木颯々(アメリカ合衆国)

どこまでも明るく楽しい筆致。キャラクターも定型的でありながらも意外性に富み、“湯けむりモノ”(温泉旅館舞台モノ)のガジェットと合わせて魅力を出している。完成度も高いのだが、書き下ろし文庫的な軽さが新人賞としてはどこまでいっても弱い。

狐の尻尾 眞田あんみ(愛知県)

とても筆力があると感じたが、学園、学校という狭い世界のなかの、「とても大切な大きなもの」、を描き切れていないのが残念だった。次作に期待します。

白光 真田五季(神奈川県)

全編が剣戟、チャンバラ場面の連続。腕がぶった斬られ、首が刎ねられ、血しぶきが飛び散るさまの凄さは圧巻だ。その部分は認めるが、如何せん登場人物の誰ひとりとして共感できないのが難。あまりにも頭が悪すぎ、単純すぎて、結局は物語全体が厚みも何もない絵空事になっている。マンガの原作にならいいかもしれない。

夜渡る約束、空渡る舟 沙弥満(東京都) 

主人公が何十年かに一度選ばれて樹になることを夢見ているのなら、その大樹になる人とは、物語の中盤でもっと絡まないと盛り上がらない。またコミュニケーションが苦手なはずの人物が自己アピールするのも不自然だと感じた。そして誤字脱字が多すぎる。

バンカラ・ボール 澤岳彦(東京都)

近過去の面白い題材を探してきた小説。史実があるのだろうが、それだけに小説としては窮屈になる。そこを突破できなかったか。

アンマーの証言 椎名勇一郎(東京都)

やたら日常の風景をいれすぎたために緊張感が失われている。挿話を選び、構成を考え、もっとタイトにしたほうがいい。余計な部分があるものの、いちおうまとまってはいるけれど、新鮮味がない。もっと切実な沖縄の悲劇を期待していたのだが。

カモマン 椎野うらら(東京都)

アイデアがいい。現代の隠密あるいは扇動者を描いた斬新なストーリーを作ろうとしたのだと思う。だが、アイデア倒れになってしまった。刺激的なプロットがいくつもあるのに、流れを作らず順番に書いてしまったのが惜しかった。登場人物もかなり魅力的に造形できたので、それぞれの視点で書き分けるなどのやり方があったと思う。

人形師 紫葉曜(滋賀県)

人形が命を持つ物語というのは、飽きるほど存在するから、何か新しいもの、工夫が必要となってくるが、既存の物語の範疇を出るものではなかった。

さらば、若旦那 島之内亮(東京都)

幕末の大坂。放蕩者の若旦那だが、実は女装趣味のため、なじみの芸者の元に通っているというひねった設定が面白い。朝敵になった長州の侍を助けたことから、暢気な若旦那が政治とテロの最前線に押し出される。御都合主義なところもあるが、会話もいいし、物語の転換も巧み。政治に翻弄される庶民というテーマがきちんと描けている。後半はかなり苦い展開になるが、それも作者の料簡だろう。

海を見下ろす部屋 島村優輔(神奈川県)

素直な文章は読みやすく、主人公が現実に立ち向かうようになるまでの過程は読ませるものの、全体としてドラマが平坦。

森魂 下郷正(兵庫県)

知らないことが沢山書いてあり勉強になった。これがご自身の体験なのかは不明だが、他の作品を書けるかという疑問が浮かんでしまった。

パッシブアグレッシブ 白洲かむら(アメリカ合衆国)

グリーンリバー大学に留学した大学院生が経験する、異文化のなかで抗う青春物語。女学生を漁る度し難い教師。主人公を陥れようとする謎の女。大きく野太いストーリー展開に好感を持てた。場面の繋ぎなど、まだ工夫の余地がある。

きみとかぞくに 眞銅いづる(埼玉県)

おそらくは日常の描写を重ねることで、家族とは、恋人とは、友人とは、といった人間関係のありようを問うていきたいのだろうが、見事に失敗している。意味のないやりとりを続け、思うようにいかない日常に苛立ち、ただただ流れていく無益に思える毎日が、主人公の心の虚しさを表しているとはとても思えない。話も単調すぎて盛り上がりに欠け、面白みが今ひとつ感じられないのが残念。

ハレマチ 榛葉丈(東京都)

典型的なお仕事小説、業界内幕小説の類だが、さまざまな経験をへて一人前の編集者になっていくという基本線は外していない。これは読者を選ぶ小説かもしれない。興味ない人にはさっぱりだろうし、ある意味変化球の面白さを喜ぶ人もいるかもしれない。

浸夏のトレモロ 菅原蒔朋(岩手県)

物語が太い幹にならない。細かい枝が張っていて、それなりに美しい部分もあるが、バランスが良くない。詩的な作品を狙うのはいいけれど、ひとつひとつの感慨に自己陶酔していないか。エンターテインメントの新人賞ではなく純文学の新人賞に応募すべきだろう。

夜光町ファイターズ 杉澤千恵(神奈川県)

現代版「必殺仕置人」を目指したのか。ひとつひとつのエピソードは非常によくできており、キャラクターの立て方も上手いのに、物語が有機的にからまっておらず、一つの小説になりきっていない。テーマである問題はまったく解決していないうえ、「続く」的な終わり方は消化不良で腹立たしい。あと100枚の余裕があるのだから書ききれただろうに。

料理家の娘 鈴木万寿(東京都)

母親の人生をメインにした部分が長すぎる。この作品は娘が主人公のはずなので、最初から第3章以降のスタイルを使い、物語全体で娘を前面に押し出すべきだろう。エピソードが羅列になっているのも問題。物語の題材やテーマに相応しい構成等を、もっと考えてほしかった。

空豆の神様 瀬野ひかり(神奈川県)

公募展入選を目指し、美大卒業後も絵一筋という女性の日常。スランプで悩み、金のため風俗で働く日々の描写には筆力が感じられる。ただ「空豆の神様」の出現までが、やや長い。そこからは物語が転調して読む側はホッとするが、予定調和的で既視感を払拭するまでには至らなかった。

庭園良師 空良裕司(大阪府)

歴史小説として一定の水準に達しているが、人物とストーリーが図式的で新味がない。終盤で足利義政が市井の光景を見る場面は、もっと工夫が必要。これでは物語のキモである、作庭に込められた庭師のメッセージがなくとも、作品が成立してしまう。最大の読ませどころは、もっと効果的に使うべき。

合鍵 高野和也(茨城県)

短い章立てで、淡々と物語が語られていくのだが、山もなければ谷もない展開に終始する。何を言いたいのか、何を書きたいのかがまったく伝わってこない。日々を暮らす中で、主人公は何か生きていくための目的が欲しいのか、何かを求めていきたいのか、それすらもわからない。書き手としての見極め、覚悟がまったく見えない、感じられない。

ミックスプレート 高橋信(神奈川県)

物語の設定や展開には既視感がつきまとう。ハワイを舞台にからっとした文体でウェットなことを書くのは面白い着想だった。

人格移植 髙橋輝(愛知県)

連作で、ひとつひとつまとまっているが、小粒な感じは否めない。文庫書き下ろしの賞を狙うなら、この書き方でもいいが、本賞を狙うなら長篇としての構成と主題をしっかりと考えること。

冬が来る前に 田中善文(福岡県)

文章のテンポがよく、大人が読むに堪るものだった。しかし段落ごとの無駄な行アキや、三点リーダの打ち方など、現在刊行されている書籍を参考にすればすぐにわかるような小説表記の間違いが多く、勉強不足の感は否めない。物語はプロット先行で新味がない。作者の思い通りに動かない人物を大切にし、もう少し魅力的な設定を思いつけば良くなると思う。

不二乃花 玉城宗凡(兵庫県)

落ち着いた筆致は読みやすく、謎解きの要素もあって面白く読める。十四郎と鈴江のコンビも悪くない。若干の既視感と、中盤で中だるみをしてしまったのが、もったいないだろうか。キャラクターをもっと立てるのも手では。

ショーはもうすぐ始まる 常澤隆志(千葉県)

現代を舞台に、大きな物語を書こうとする意気があった。文章も含めてもっと良くなると思うので、もっと小説を読んで勉強を重ねてほしい。

サルヴァ・メ 露原耀袴(福岡県)

一人称の語り口は独特で、イギリスの異国情緒感はしっかりと出せていたように思う。六ペンス亭など細部もオシャレ。しかし、メイのお話が重すぎて、全体の雰囲気を壊してしまっているのでは。

教祖様の世界 鶴橋之助(大阪府)

ネットに投稿した映像が物語のきっかけになるのは現代的だ。居場所のない思いに囚われている女子高生も悪くない。だが、「教祖」をめぐる謎が実際は便乗犯だったというのは肩すかしであるし、細部に無理がある。四人の妙な関係に巧まざる面白さがあるが、意識的なものとは思えない。全体的に力不足。

傷痕 鶴乃渓谷(東京都)

「いま」を感じる作品だった。難しいテーマに挑んでいる点も好印象。ただ文章の練度を含めてまだ良い小説のかたちまで至っていない。

オリオンの右肩を 東郷尊一(東京都)

作品の狙いは悪くないが、いろいろと問題がある。頭のいい少年少女を表現するためか、文章が回りくどくなっている。地の文は、もっと簡素に。ラストの意外性にはたしかに驚くし、それにより少女の聖性が剥がれ落ちるという展開は評価できるが、唐突。ミステリー・テイストのある青春小説だが、これなら完全にミステリーとして書いた方がよかったと思う。

土くれにかえる夢を見る 十五原征龍(石川県)

異性同性問わず、見るものを惹きつけてやまない女の子を巡って独特の世界観を作り上げてはいるが、やや観念的すぎて作者の自己満足になっている側面がある

ボロボロ島 登坂続(大阪府)

クローゼットの扉を開けたらそこは別世界だった、という物語を書きたいと思ったのだろうがファンタジーは甘くない。異世界があると信じて、そこへ行きたいと念じるのはいいが、それを信じる人間がこの世で自分だけのたったひとりという現実部分を描いてくれないと主人公の焦りや苦しみ、葛藤が伝わってこない。ファンタジーだからリアリティは欠如してもいいわけではない。。

こぐま座アルファ星 東堂冴(京都府)

ひとつひとつ丁寧に紡がれた描写には好感が持てる。メイン要素である弓道に関してもわかりやすく書かれているが、ボリュームが多すぎて、肝心のストーリーが単調になりがち。より深く登場人物の関係性に注力しないと、読み手が飽きてしまう。

異世界に・過去と子供は・置いていけ 匿名希望(栃木県)

著者の世界観が確立されていて揺るぎない。キャラクターへの思い入れが強いぶん、読者がついていけない場面が多々あったように感じた。

花火のあとで Tommy.G (三重県)

身寄りのない老人の葬儀、ゴミ屋敷……現代事情をあれこれ盛り込んでいるが、主人公に感情移入がしづらい。先にプロットがありきで、登場人物たちは駒になってしまっている。

からっぽ 中居真麻(兵庫県)

洒落た書き方をしようと気負い過ぎて、かえって文章がくどくなっている。人物を記号で表現するアイデアは面白いが、読んでいて煩く感じる。いい文章もあるので、あまりいじくりまわさず、もっと素直に書いたらどうだろう。主人公一家のバラバラぶりも、今では目新しさがなかった。

白昼のオウル 中今らい(神奈川県)

荒唐無稽ではあるものの魅力的な設定の妙を存分に生かしているかといえば、物足りなさが残る。たとえば、主人公の殺しの場面は冒頭の一回しかないし、途中から「マインドコントロール」を絡めてしまったため、話が複雑になってしまった。「仕置組」を現代版警察公認必殺仕掛人、にしてしまったほうが良かったのでは。

深川ロマンス 長尾啓司(東京都)

現代下町人情物語。深川の美容室オーナーを中軸に、さまざまな人生を描く。あまりに映像的な人物描写にはっとさせられた。会話と場面設定は相当な手練れの作者だが、若い読者を意識して、惹き込むような「カオス」を見せて欲しかった。

月曜日のアラームと、天使と悪魔 中曽根有樹(東京都)

おもしろいアイデアだった。それをもとに読み進められる。ただアイデアに甘えたのか文章や細部が甘い。期待したぶん残念だった。

不協和音 那智順(三重県)

初めて書いた小説とのことだが、それにしては文章は巧みで読みやすかった。しかし、ひとつひとつの文章の塊が小さい上、ストーリー自体には新鮮味がなかったように思う。自分の経験の中だけのお話では、全体が小さくなってしまうのでは。 

ヨルマチ商店街へようこそ 夏澤しお(石川県)

初期設定が、連作短編化するための段取りにしか見えない。そこから描かれる個々の事件は見た目が派手なわりに中身は薄く、真相解明や犯罪立証のための手続きが、運と偶然と登場人物達の頭の悪さによって成立しているのはまずい。

Cocoon 夏原エヰジ(石川県)

鬼と化した者どもを退治するために、「黒雲」という闇の組織が江戸の闇を疾駆する。この物語は、最初からシリーズ化を意識して書かれている。花魁が何故このような組織に入ったのか、はたまた見世(吉原の店)がどうして鬼退治の仲介をとっているのか、仲間はどうやって集めたのか……などはすべて次作以降のお楽しみというわけだ。話の内容は単純なものながらこれが実に面白い。

二十年間閉ざされていた扉 七瀬拓海(神奈川県)

難しいけれど普遍的なテーマを題材にしている。それを読ませる工夫もしている。考えられた作品だけれども、読者を選んでしまう。

秋田独立宣言せず 成田権次(東京都)

主人公ふたりの関係性はとても魅力的で何気ない会話にもセンスを感じられるが、話の焦点が絞り込めていない。「どうして」そういうことになったのか、もっと煮詰めて欲しかった。「追いつかなく」「弾まなく」「理解できなく」「届かなく」などの地文は「追いつかず」「弾まず」「理解できず」「届かず」が自然。

ウッドチャックが木を投げることができたら。 虹乃ノラン(愛知県)

リズムが独特で楽しんで読めるようなところがあった。それでも、主人公や舞台の設定のハードルは高いと思いので、そこを読み手が飛べるための「読む理由」のようなものが欲しいと感じた。

ファミリア 虹乃ノラン(愛知県)

小説のかたちになっている。読みやすい文章で物語のツボも押さえている。ただ突き抜ける書き手の「核」を本作からは感じなかった。

逆境を食べる男 西村晃(神奈川県)

貧乏からの成り上がり、というのは、現代的なテーマだと思う。ただやはり、そうした物語は「今」(読んでいる「私」)にどうつながるか、が重要。そこにオリジナリティのすべてを注いでほしい。

まほろちゃんの軽薄な復讐 沼森たぬき(大阪府)

姉の旦那に不倫を仕掛ける女の子。姉に対する複雑な感情は、いい意味できちんとイライラさせられるし、なによりセックスシーンがちゃんとエロいのは美点。ただ、もう一人「本命」っぽい男の子が現れて、誰を選ぶか……という流れとこの結論は、古今東西何人もの作家が書き尽くしている。何か新しい発明、発見が必要だった。

ヒヅメの墓 野原京子(岩手県)

映画は冒頭五分間でそのすべてを晒す。小説も同様。どのようなテーマ(謎)をどう書くのか。物語に引き込む力が弱いと感じた。

ニカと忍のうつろう舟 灰田雨土(大阪府)

うつろ舟vs.忍者、という冒頭のトンデモなさに魅力を感じた。さらなるSF的な展開には驚かされたが、さすがに読者を置いてけぼりにしている感は否めない。お話の突飛さに比べてキャラクターが普通過ぎる。

宇喜多直家の女 袴田康子(静岡県)

文章は整っていて、歴史小説としての形は成している。しかし、どこか既視感が漂ってしまうのと、キャラクターの弱さが気になった。魅力的な登場人物を設定し、引っ張っていって欲しい。

〈眠り探偵宇田種子シリーズ1〉 HARAHARA(鏡の国の悪夢) 波瀬霞(埼玉県)

文体は饒舌で悪達者だが、この若さでこれだけ書ければ抑制することもできるだろう。作者が面白がるほど、読者は引いていくもので、そのあたりのさじ加減が難しい。キャラクター中心のいわゆるラノベ風ミステリーだが、肝心のミステリーの部分はまるでだめ。シリーズもの(を予定しているように見える)を応募するのは、当たり前のことだがやめた方がいい。

イシュタム・ロンド 畑中葎(長野県)

扱う題材もいいし、掘り下げようとする努力も見て取れる。文章も悪くない。ただ展開が遅く、人物に魅力がない。この問題に興味を持っている読者であれば楽しく読み進むだろうが、そうでない人間には忍耐を強いる。百調べても一しか書いてはいけない。また調べたことを語りや地の文でそのまま描くのではなく、人物の生理に落とし込んで描いていただきたい。

瑠璃と覇王 羽月森魚(埼玉県)

一読して『里見八犬伝』を彷彿とさせた。異界ファンタジーは背景を説明するのがとても難しいのだが、本作もその部分が長すぎ、本編に入る前に飽きてしまう。書き手は楽しいかもしれないが、小説とは人に読んでもらうもの。状況を語るときも、小説的な面白さを考えてほしい。登場人物が多いため、視点がずれる個所が多く、誰が誰と話しているか混乱する。構成の整理が必要だ。

鍋島侯爵夫人 初瀬みのり(東京都)

丁寧に書かれている。あくまでも一人の女性の生き方を描こうとする、その試みが成功している。前半の何気ない場面や挿話があとで語られるあたりの変化も、しっかりと見据えて感慨深いものがある。一人ひとりのキャラクターに厚みがあるし、文章も充分に抑制がきいているので、テーマの把握も強く、ドラマは切実な響きをもつ。

ツインタワー 浜田類(東京都)

セクシャリティと家族の問題を描くための物語、という印象。物語にひたりながらセクシャリティと家族の問題を考える、というのではないのだ。テーマのための人物と物語設定が見えすぎて話を薄くしている。

イル・セルペント(蛇) 早川コウ(埼玉県)

東京大学工学部電子情報工学科の研究室が舞台の、新プログラム言語をめぐる物語。ある種の天才が集う登場人物はほどよく個性的で、随所でニヤリとさせられるのだが、どうしても文章が説明的になりがちでもったいない。章ごとに視点人物が変わるのに、いずれ変わらぬ印象で読み飽きてしまう。段落間のつなぎもぶつ切れ気味なので気を付けて。

破局点 早坂弘之(宮城県)

すらすらと読ませるのだが、登場する人物造形、台詞に既視感を感じてしまう。また、会話のみで話が進む箇所、説明箇所がはっきりと分かれており、いかにもの習作的な匂いがした。

七人の青シャツ隊 早池峰遙(東京都)

太平洋戦争中に「青シャツ隊」として働かされた囚人たちのドラマを描いたもの。タイトルは『七人の侍』のもじりか。丁寧な筆致は好感が持てるが、物語全体にもう少しメリハリが欲しい。

メイド イン フロンティア 原田至(千葉県)

「わだかまりを抱える男女4人が、ひとりの男との出会いで人生を変えていく」という筋は明快で面白い。しかし、あまりに話が順調に進みすぎ、展開もやや突飛なのが難点か。

アラサー・モナカの《G》 原田京(東京都)

モナカや「6の耳」といったネーミングのおもしろさがあった。ただ、こういうテイストの話を書く場合、とくに会話だが、「抑制」を効かせながら進めていくといいと思う。

桑の下のイヌと犬といぬ 柊薫平(東京都)

作者は、ミステリー風に言うと叙述形式の時制トリックで画期的な仕掛けを施すのだが、残念ながらそのトリックの正体に辿り着くまでがつらい。最大の問題は会話。およそお上品な、現実にはまず絶対にないだろう小説の中でしか見られないような、丁寧で説明過剰口調の物言いと言葉遣いは、読んでいて白々しく、疲れることおびただしい。しかも語り手の視点が変わっていっても、同じ調子で進んでいく。過去と現在の因縁はよくできているのにこれは惜しい。

TOMOE! 樋口郁子(神奈川県)

主人公ふたりの心情が単に一人称だからという以上に丁寧に綴られていて、よく伝わってくるのだが、随所でそれが冗長に感じられてしまう。何もかもを書きすぎずに、表現を省いても読み手に何を言いたいのかを感じさせられるような工夫を重ねていくと、かなり良くなるはず。改行が少なく文章が流れてしまうので、そうした細部にも気配りを。

Pingru’s Changes 兵藤彰比古(広島県)

史実をもとにしたサスペンスとして、全体のまとまりはいい。ただ、物語としての膨らみに欠けるのが残念。筆力はあると思われるので、既存の小説、書籍、史料に頼り過ぎない、オリジナリティを意識した創作に挑んでほしい。

アルコーブのある部屋 深瀬チェチリカ(神奈川県)

浮気された四人の女が仲良くなり会議をする、という設定は面白いのだが、肝心の会議内容がつまらない。『SEX and the CITY』を見習いたいところ。

ベッドアンケート 藤林清一・宮本薫(福岡県)

AV女優となった初恋の相手と再会するためにトップAV男優を目指す。そんな突飛なストーリーを妙に地に足の着いたものに仕立てているのは、ダサくて生真面目な主人公の造形。段々と惹かれていく。愛の物語としての立ち上がりをもっと早めれば、さらに魅力的な物語になる。

夕暮の時代 藤村友太(イギリス)

戦争という題材に正面から向き合ったことは評価したい。ただ、数多くの先行作とそのなかの傑作と対比しての、新しい発見がほしかった。

思い草とBPM 二日町灯(宮城県)

改行なしで書く意味がわからない。ぎっしり文字を並べるだけでは駄目。エンターテインメントの賞に応募するなら、ストーリーとキャラクターをもっと考えるべきだろう。ここには読者の心を躍らせる波瀾にみちた物語があるのか、読者をわくわくさせるストーリーテリングがあるのかどうか考えるべきだ。

スーパーヒーローの息子 鮒串宙(東京都)

荒唐無稽で、どこまでも読者を置き去りにしたまま駆け抜ける展開は、いっそ潔い。テレビの戦隊シリーズのような戦闘場面や悪と正義の対決は読ませるけれど、作者が何を伝えたかったのか、焦点がぼやけている。

風に吹かれて、タンポポ 蒲公英(東京都)

六年前に来日し、現在は大学生となった主人公の欧陽衛を中心に、日本で暮らす中国人女性たちの生き様を描く。個々のエピソードには興味をひかれたが、構成が甘く、冗長に感じられる。陽衛と友人たちの話として書きたいのか、群像小説として書きたいのか完成形を意識することが大事。独自の視点を持っていることは大きな武器なので今後に期待したい。

ボザーリの火 干田貝(東京都)

音楽小説は一つのジャンルになりつつあるが、やはり音が聞こえてこないと難しい。これはかなりの手腕がいる。最初に時代背景を読者に分からせる工夫が必要だろう。地方オーケストラの悲哀の部分はとても面白かったが、突然の事件に困惑し、主人公が物語途中で死んでしまうのにも驚愕。これでは話が続かない。前半と後半で物語が全く違うのはなぜなのか。

傀儡の騒立ち 細野丞(静岡県)

江戸期、不作により困窮した百姓たちの打ち壊しを描く。史実を参考に書いたようで、ほぼ時系列に従って多くの関係者の視点で語られる。ノンフィクション的な手法だが、さしたる意外性もなくドラマもないので、読者に訴求するものがない。

猛勇左内は、ど吝嗇にてござ候 牧村圭(東京都)

織田信長家中の蒲生家に仕える岡左内の生涯が描かれる物語。ユーモアもたっぷりで結構面白く読める。が、特徴があるにもかかわらず、この人物の造形が茫洋とした印象しかないのが弱い。読み終えたあと、あれっ、どんな話だったっけと即座に忘れてしまいかねない。

営為の祈り 政岡伸浩(兵庫県)

戦中世代の生き様を丹念に描く好編。徹底的に破壊された敗戦国日本を生き延びた主人公は、反戦教師として定年を迎えたが、親友の亡霊と掃海殉職者追悼式で出会う。闇市や戦後のどさくさなどを少年の目を通して丁寧に描いた筆力はすごい。

忘却の銀嶺 松尾修(長野県)

発想の原点は八甲田山雪中行軍遭難事件だろうが、それを太平洋戦争末期の北アルプスに持ってきて、独自のストーリーにしたことを評価したい。しかし小説の書き方が武骨。倉科の中国のパートは、メイン・ストーリーの中で消化した方がいい。倉科と風間の確執もありきたり。題材はいいが、いろいろな部分で、もうひと練りが足りない。

四本の足で立ち 真月一蓮(東京都)

椅子作り職人の物語。作品の修正に後戻りはきかず彫り進めるしかない、といった椅子作りならではのエピソードを読むのは楽しいが、年に1度のコンクールの存在だけで物語のうねりを作ろうとするのは厳しい。枝葉を潔く切りすぎたか。読み手の好奇心の火を消さないための努力は感じたが、投下したネタは湿気っていた。

山犬の抜け殻 豆宮ふう(神奈川県)

大胆な設定に挑んだ意欲は見事。人物(山犬も含め)たちの語り口も魅力的だが、謎解きの部分がややありがちだったので、拍子抜けしてしまった。

変身世界のグルメパーティー 丸川そら(京都府)

文章は達者。しかし世界観がゲーム的で、登場人物たちがいとも簡単に違う生き物に変身したりする。物語の必然をしっかり追うべき。

無造作ヘアとリーゼント 水野綱紀(愛知県)

登場人物の感情の盛り上げ方には迫力があり、読み手を惹きこむ魅力がある。しかし、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と似た話運びに新鮮さが乏しく、よりオリジナリティのあるストーリー作りの研鑽が必要ではないかと思った。

流寓の華 三田村優希(福井県)

ストーリーラインは良いが会話文が古く、工夫がない。感嘆符を多用したり時代劇のセリフのような言い回しが多かったりと、間抜けに見える。地の文は、人物の心情描写から著者視点での説明まで入り乱れており、ルールが読めない。もっとも描き込むべき死に際もあっさり済ませている。一文一文を読み返し、物語のおもしろさを増幅される文章、文体を追求して欲しい。

通し狂言 艶較愚齢賭励走 三井多和(長野県)

明治の末、新聞社が販促狙いで企画した東海道・牛驢馬(ロバ)大競争、という内容は愉しく、時代的な背景も分かりやすく整理されている。が、狂言師の役割を担う語り手の視点が定まらず、違和感が否めない。「語り」の文章であるにしても表現が単調になってしまっているため、次第に読み飽きてしまう。記者たちの道中記を交えるなどの工夫が欲しかった。

幕末ピストルズ 水無月神野(神奈川県)

暗殺された坂本龍馬のピストルを小道具にした幕末青春小説。ストーリーの大枠は問題なく、主人公の祖父と父親が、侍マニアという設定も面白い。しかし時代小説としては、粗がありすぎる。身分制度や言葉使いに対する認識が、あまりにも雑で、その他にも引っかかる所が多く、時代小説として厳しく評価せざるを得なかった。

鎌足 南博通(東京都)

始まりの設定がよかった。白鳳時代あたりは、どうしても大和中心に描かれることが多く、地方を描いていくというのはおもしろいと思う。情報が多いので、もっと平易に、読み手が物語に浸れるように書いてほしい。

米馬鹿 蓑修吉(宮城県)

年貢をめぐって、横暴な要求を課す藩と苦しむ農家という、これまで幾度となく書かれてきたテーマ。だからこそ何か新しいものをと、こちらは期待する。残念ながら本作にはそれが感じられなかった。ひとつひとつのエピソードはあるのだが、全体としての物語がない。日常スケッチという印象が拭えない。

狼の背中 三六つくも(熊本県)

主人公の性をはらんだ目線で描かれる情景がみずみずしく、魅力的。ただ、何を書きたいのかが自分の中ではっきりしていないのでは、と感じた。次作に期待したい。

虹道橋からの風 向旧日(大阪府)

比喩やもってまわった表現の多用が、文章の味となるのではなく、疎ましく感じられてしまっている。特異な物語なだけに、特に序盤では、読者をこの世界に引き込む勢いも大事。主人公が「転生」というものに、生き難い現状とは別の本来の世界がある、と救いのようなものを見る思いをもっと掘り下げていくと、リアル社会と重なり共感も得やすく、エンターテインメント小説としての魅力が増したのでは。

ひきこもり貸し出します 向五十(北海道)

言葉の選び方や会話のテンポに作者独自のものを感じて印象に残るものの、ひきこもりが主人公の家にレンタルされてやってきたことによる波紋と、そこからの展開にもっと起伏が欲しかった。

これもまた同じ夜空 村越呂美(東京都)

読者の興味を惹く設定をつくる力量を感じた。だからこそ読ませるが、いっぽうで書き手の才を感じさせる小説の文章にはなっていなかった。

流氷 桃七海(東京都)

夫婦問題で悩む女性に、現世を漂っている特攻隊戦死者の霊が憑く。彼女以前にも憑いていた女性達のエピソードが、最後になって一本につながっていく。ある女性の子供の失踪とか、無理のある設定もあるが、力強い筆致で読まされてしまう。

橋姫外伝 藻利弥生(兵庫県)

ノンフィクションではないので、「橋姫」は素材であってテーマではない。いかに読ませるかという魅力について考え、構成を練る必要がある。

春を忘るな 森園知生(神奈川県)

現代パートを枠組みにして中に鎌倉時代の話を入れたのが本作の工夫だが、現代の物語が物足りない。憲二と杏子のエピソードをふくらませるなどして今昔のバランスをとるか、いっそ鎌倉だけにして実朝が宋へ渡ろうとする物語に特化してもよいのでは。

あなたへのダイアリー 森の新一(埼玉県)

亮介とティムのやり取りには、なかなか感じるものがあった上、初恋の人からの気になる手紙というのも引きになっていた。しかし、往年の恋を懐かしむ、というところから抜け切れていないところが難点か。

G 森谷祐二(福島県)

メキシコを舞台にしたシリアルキラーものでマフィアもの。あからさまに先行作品の記憶をネタに盛り込んでいるのだが、殺人鬼の語りになると改行なしの一人称になるなど、またか、の匂いは強い。ただ、痛みにまつわるミドルポイントの一言で、空気ががらっと変わって後半に向かう流れは良かった。とはいえやっぱりメキシコを舞台に選んだならば、ラテンアメリカ文学の知識ではなく、現地の風そのものを感じられるような文章が少しでも読みたかった。

よくある母子家庭と一つのしおり 谷田マコ(東京都)

学歴も職のキャリアもない二十代女性のリアルな様子は読み応えあり。子どもの頃の暗い思い出が蘇るいたたまれなさなど、グッと入り込んで読んでしまう。暗い話の中でどういった光を見せるか、そこを意識して新たな物語を紡いでいってほしい。

撃て 矢吹徹(愛知県)

映画を観ているようで面白く読んだのだが、どうも構造がとっちらかっているように思う。登場人物が多いのでやむない所もあると思うが、そのあたりもう少し整理が必要だったのではないか。

風が吹けば 山口夏凜(東京都)

商店街の小料理屋を舞台にした良い話。平凡なものをきらりと光らせるには、ディテールが大事。もっともっと作家の目を日常生活で持って欲しいと思う。文章が単調で、主語の重なりも多かった。

断腕とへらず口 山田育徳(東京都)

言論統制が敷かれたディストピアSF。戦争批判をした結果腕を切られ義肢になったことで、クリーニング屋でのアイロンがけ仕事がラクになるという小ネタはところどころ楽しい。が、物語は全体的に混乱気味で、思いつきの羅列という印象。「戦争」の一語を安易に用いすぎたからかもしれない。「戦争」に関する書き手のビジョンが感じられなかった。

アストロツイン 山田甲八(東京都)

高校三年生の男の子が医学部試験を受けようとし、大学進学の費用を、幼なじみの少女の母の不倫相手に要求する……ん? 冒頭から無理筋で始まり、その後も無理筋が続く。個々のネタもおままごと感が拭えず、文中での情報開示のルールも混乱している。

やり投げ 山本慎太郎(大阪府)

へなちょこ男の再生物語。会話のやりとりによって、キャラクターを彫り込んでいく手腕が優れている。文章は読みやすく、ちょっと捻ったエピソードもセンスがある。全体的にストーリーの起伏が乏しいが、これはそういう物語だと受け止めるべきだろう。読んでいて、久しぶりに“フィーリング小説”などという言葉を思い出した。

気ままなさいころ 山本裕貴(徳島県)

時に童話的に、時に漫画的に、独特な言葉と感性で性について描いている。ただ、こちらに伝わりきらないひとりよがりな表現も多く、展開もわかりづらい。

キムチ 山本倫子(神奈川県)

周囲から孤立しがちな少女が、成長していくに従い、抱えるトラウマの原因が、徐々に明らかになっていく。説明的な会話が主体で、平板にずるずると続いていくので、読むのに辛抱がいる。刈り取るところと力を入れるところを作り、起伏をこしらえる必要がある。

毒吐き女と僕の夏 由紀草一(千葉県)

文章はしっかりしており、キャラ立ちや会話、主人公の内面描写などもよく書けている。しかし、長編小説としては世界が狭すぎ、作中の事件の展開や解決に物足りなさを感じた。

白紙の未来図 結城文織(茨城県)

女子商高生がヒロイン。自分の将来、自らの進路を決めかねている若者の迷い、悩み、思いのほどはわかるのだが、それがどうにも伝わってこない。その後の展開も類型的すぎる。自分の気持ちだけが空回りして、その様子がまったく伝わってこないせいで、ヒロインの魅力が半減している。作者自身が空回りしているからか。

天正の桃 有斗美暁生(神奈川県)

天正の遣欧使節団の物語で、イエズス会の使節団を率いる巡察師ヴァリニャーノのドラマや、活版技術を習得し、日本に持ち帰る使命を負った、ポルトガル人との混血であるドラードのドラマは読ませるものの、平板で物語の起伏が乏しい印象が残る。

千鬼万紅路 月乃佐和(京都府)

物語としては出来上がっているとは思った。ただ、この世界には既視感がある。同じジャンルの既刊作品を読み、自分のオリジナリティは設定なのか文体なのかキャラクターなのか、を研究して煮詰めて欲しい。

百色のプシュケ 横平さしも(神奈川県)

先人に何度となく書かれてきた普遍的なテーマを材にしている。読めるのだが、この人ならではの突き抜ける才能までは本作では感じられなかった。

いとこんとドリア 吉田昌司(埼玉県)

母親の病、家庭内暴力、と重いテーマだが飄々とした筆致で読ませる。が、盛り上がりに欠けるので印象が薄いものになってしまった。エピソードの出し入れをもっと工夫する必要がある。

調子に乗るなよ、金沢 吉田ユキヒ(富山県)

登場するのが下種下品な人物ばかりだが、コメディ・タッチにしてあるので、あまり嫌味なく読める。ただ、川内丸はキャラを作りすぎ。作品も長すぎる。百枚削れば、もっと締まった物語になる。また、地方都市の閉塞感が、もっと前面に出ていれば、人々の足掻きが、より際立ったと思う。

あしぶね 吉野理花(徳島県)

望まぬ出産。その子を育てるのか、手放すのか。余韻を感じさせるラストではあった。しかし、展開が進むのが遅く、前半が冗長。妊娠して以降の葛藤、トラブルを中心に描いた方が良かったのではないか。

100億売る女 龍金花苗(東京都)

勢いもあり楽しく読み始めたが、一本調子で次第に読むのに疲れてしまった。読者をもっと楽しませる工夫があればよかった。

遮那王異聞録 竜崎蒼(神奈川県)

義経は死んでおらず、大陸に渡りチンギス・ハーンとなった、とされるいわゆる「義経伝説」のアレンジ版。本来のテムジンは武人とは程遠い人物であったため、逃れ落ちた義経が、本物のテムジンからテムジンという名前を譲り受けた、という設定にはオリジナリティがあるものの、この手の物語の鍵となる“スケール感”が弱い

赤色に染まる頬 六鹿信(愛知県) 

一行目から「てにをは」が間違っており、硬い文章で上手とは言えないのだが、独特な個性を感じた。人間の「陰」の部分を描こうとする姿勢に好感を持った。

heart・tatu 我井夕景愛(千葉県)

才気まかせに書いた物語という印象を受けた。文章も内容も未熟で、作品としての評価はできない。また『夢を彫る』というアイデアにも、目新しさがない。でも作者は、なにか持っている人だと思う。才気に手垢をつけないよう注意しながら、小説の書き方を学んで欲しい。