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第65回江戸川乱歩賞
2次予選通過作品の講評と最終候補作

第65回江戸川乱歩賞
2次予選通過作品の講評と
最終候補作

第65回江戸川乱歩賞は、2次予選を通過しました21編から、5編が最終候補作として審査されることになりました。最終候補から惜しくももれた作品については、下記に講評を記します。
(予選委員は1次、2次同様、香山二三郎、川出正樹、末國善己、千街晶之、廣澤吉泰、三橋暁、村上貴史の7氏です)
なお、受賞作品と、選考委員の選評は6月下旬頃「小説現代」のHPに掲載され、「小説現代 特別編集 乱歩賞特集」(9月発売予定)にも掲載する予定です。

最終候補作

「日陰蝶」小林 しゅんすけ

「NOIRを纏う彼女」神護 かずみ

「消尽屋」小林 宗矢

「歌舞伎町 ON THE RUN」箕輪 尊文

「シャドウワーク」佐野 広実

2次予選通過作品の講評

「いきてさき」井上 岳則

票が割れた。戦艦大和を舞台にした着想と 『ダイ・ハード』的活劇演出のキレはいいが、 対米軍の密謀内容に興醒めとの声もあり、推 し切れず。だが最後まで競(せ)って、作者の実力 の程は充分伝わった。軍艦探偵ものは今後も 追求する価値のあるジャンルかと。

「脳波銃 ― Brain Destroyer」久野 総一郎

荒唐無稽さやスピード感には強く好感を抱いた。風呂敷をひろげまくるのも、この活劇小説に関してはアリだ。だが、他者と競う新人賞では、その魅力だけでは勝ち残りにくい。謎の要素が希薄なのも弱点。この作品で勝ち抜くならアクションの機知や迫力を徹底的に磨くべきだ。

「マフィオーソ―妄執の末路―」桜園 ジョーイ

シチリアの描写、サッカーをめぐる南米と欧州の覇権争いなど、情報小説としては読ませるがミステリ部分が脆弱。スタジアムでの首つり、という導入部は衝撃的だが、その必然性は説得力なし。また「遊び駒」状態の登場人物がいる点にも留意して欲しい。

「霊安山の11人」岡本 賢一

まず、従来の乱歩賞受賞作にないタイプの作品で敢えてトライするというチャレンジャー精神がいい。その点を買って、この作品を強く推す予選委員もいました。複雑な人間関係が実に濃やかですが、散見される文章のぎこちなさを解消することが次の課題でしょう。

「咲の駒音」広原 遼一

将棋ソフトを使うことによってロートル棋士がいきなり強くなるくだりなど、将棋業界小説として読んだ場合はかなり興味深いエピソードが多い。しかし、ミステリとしては長篇を保たせるほどの骨格が備わっておらず、短篇ネタと感じられてしまう。

「穢の代償」木村 草子

特殊な設定を活かし、手掛かりも過不足なく使って畳みかける謎解きを作ったところは評価できる。ただ探偵役が現場に着いてからは、聞き込みで事件の状況を調べる単調な展開になるので、物語としての面白さがない。殺人の動機も、舞台の特殊性を考慮しても強引すぎた。

「カラスの咥えたシャレコウベ」綾木 秀道

児童虐待という今日的な題材で書き上げた点は評価するが、肝心の子供の描写に説得力がない。主な小学五年生たちが全員子供らしくないのだ。子供っぽくすると物語を成立させにくいのは理解するが、視点人物を大人にして物語を再構成するなど解決策はあったはず。

「神々の乱舞」光月 涼那

世界を舞台とする物語をテンポよく読ませた点はよい。だが、その良さが、雑さの上に構築されていることに気付くと評価は急落。ともに重要な要素である福島の原発事故とユーゴスラビア解体時期の不整合や、重要人物の心の動きが都合良すぎたりとか。残念だ。

「キンカコ」辻 大悟

刑事から詐欺師への転職が、いとも簡単なことのように読める点でひっかかりました。冒頭の手形詐欺も杜撰で、成功するとは思えません。時代性を物語に反映させるために、歴史的事実を羅列するのも安易です。偶然の多用など、不自然さの払拭も必要でしょう。

「剪定」小川 結

大学の腐敗教員が次々に殺される本格もの。 私立学園の悪しき一面が浮き彫りにされ、ヒ ロインたち派遣職員の悲喜劇もうまくまとめ られているが、二時間ドラマ原作的な枠内に 止まっている。上限枚数まで余裕があるし、 独自の工夫がもう一つ二つほしかった。

「不死の谷」大岡 俊彦

複数のエピソードを鮮やかに連ねて、読ませてくれる作品です。ストーリーテラーの才を感じるとともに、ディテールの面白さにも感心しました。ただし、人工知能の犯罪という興味深いテーマが、その入り口だけで終わってしまっているのがなんとも残念です。

「渦の果て」名波 冽

元警察官の弁護士や、ヒロインの女刑事、さらにはその脇を固める巡査(勤務中に住民に襲われリハビリ中)等登場人物のキャラ造形は巧み。その一方で、作中で描かれる二つの犯罪につながりがなくインパクトに欠ける点が難点。ミステリの技術を磨いて欲しい。

「東京裁判のトリック」松本 ジョンガル

東條英機の自殺未遂と東京裁判での死刑判決を巡る壮大な陰謀劇。着眼点は面白いが登場人物が物語を進める駒に過ぎず、現代に生きる作者が調べた知識を共有して会話している点、東條英機のそっくりさんが大量にいる等のご都合主義が散見される点が大きな瑕疵。

「六本木クロスロード」山口 遼

六本木という舞台は魅力的だが、特段の背景もない、客引きの主人公が、腕っぷしひとつで相手を倒してゆく物語はよく言えば明快、悪く言えば単純。悪役らが、主人公の恋人を人質に取ろうとしない点も詰めが甘い。相手側にも立って物語を構成して欲しい。

「フルオーシャン」越 稔展

最初はいけすかない印象だった主人公の再生の物語としての要素、そして主人公とロボットの「バディもの」としての要素は面白かった。真の犯行動機も印象的。だが、とても22世紀と思えない未来社会とテクノロジー描写のせいで強くは推せなかった。

「霧の黄昏」佐藤 亮一郎

乱歩賞には珍しいハイ・ファンタジー。世界を構築し人物を造型する力は水準を超え、剣戟場面には迫力があるがミステリ要素があまりにも希薄。米澤穂信『折れた竜骨』レベルまで謎解き要素を濃くするか、他の賞も視野に入れるか思案することをおすすめします。