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第14回小説現代長編新人賞
3次選考通過作品、発表!

第14回小説現代長編新人賞
3次選考通過作品、発表!

第14回小説現代長編新人賞は、2次選考で132作品が選ばれました。編集部で3次選考を行った結果、次の16作品が4次選考へと進むことになりました。なお、11月22日(木)に4次選考の結果と選評、2020年3月号(2月22日発売号)の「小説現代」に、受賞作品と選考委員選評を掲載する予定です。

3次選考通過作品

晴れ、時々くらげを呼ぶ / 鯨井あめ

浮遊するランダム・ナンバー / 西条彩子

ゴミ屋敷の友人 / 椎名勇一郎

プリズム / 榛葉 丈

ノクチルカ / 関澤俊輔

向こうがわを駆ける風 / 永山政広

惑星難民Ⅹ / パリュスあや子

獣たちのハイウェイ / 平石海辺

山吹色の恋人 / 平野未奈

藍眼涙ランヤンレイ / 真里谷宗佑

無駄花 / 未定

紫の砂 / 美和高史

灯しや電気店 / 森川瑠美子

かぞくの、おはなし。 / 森谷祐二

温暖湿潤気候 / 義田哲仁

ゆうこちゃんのお母さん / 流水都歌

2次選考通過作品の講評

花嫁は死んだ君 藍沢すな

冥婚という風習と殺人事件の謎は引きがあり、序盤はとても読ませる。だが主人公とその友人が、関与した過去の2件の人の死について無責任すぎる。時代背景や文化などの説明も少し物語から浮いてしまっているのも残念。

後宮改善! 藍原小夜

非常に着眼点はよいと思います。ただ、時代背景があまり伝わってこなかったり扱っている事件や出来事が少し小さすぎたような気がします。幕末の志士や幕閣などをスパイスとしていれてもよかったかもしれません。

金山家家督督騒動始末記 愛浦みなみ

主人公はじめ多くのキャラクターがわかりやすく性格付けされており、うまく書けている。一方でストーリーの進め方には強引なところがあり、全体の構成がこれでよいかどうかにも疑問がある。

カピタン様のお菓子係 碧きょう

お菓子×タイムリープを組み合わせた設定は斬新でした。一方、200年前にタイムリープしている設定ですが、読んでいる印象としては現代的。当時の時代背景の書き込みがもっと欲しかったです。

罰庵 青木海斗

着眼点はおもしろいが、中盤以降「罰ゲーム」とは無関係に物語が進んでしまったのがもったない。キャラクターもライトで楽しく読めるが、こういう性癖を持つのは、こういうキャラクター、という既視感がぬぐえず、新鮮味は少ない。中盤から後半の暴力描写をメインとした話をするか、設定どおり「罰ゲーム」をもっと主軸においた話にするか、どちらかに徹底したほうがオリジナリティが出たのでは。

雪原の白鷺 闇夜の烏 明石朝霧

迫力のあるシーンはいくつもあるのだが、視点で損をしている。読みにくく、一人称であるが故に全体像をつかみにくく、他の登場人物への理解も深まらない。三人称で分かりやすい言葉を使えば、もっとよくなったのでは。

ほら吹き参謀 赤間 勇

日中戦争という重苦しい時代設定の中で、生意気な参謀を主人公に、二二六事件や満州国の開拓村の実態などをディテール豊かに、かつユーモアも交えて劇画調ながら大胆に描き、ぐいぐいと引き込む。男装の大陸浪人に失恋して仏門に入るあたりはイージーな感じがあるが、実在の人物に依存しすぎずにドラマを組み立てる力は確かだと思う。

木ぼっこ 秋保山人

文章は読みやすく、丁寧に物語を進めている。だが、木ぼっこだけで引っ張るには題材が地味なのと、登場人物たちの書き方も表面的で、彼らの生の感情が伝わってこなかった。

黄昏の狙撃手 秋保山人

非常に安定した筆運びで、往年の藤沢周平のような読み口ではあるものの、題材や展開に既視感があった。現代の問題をその時代に置き換えるくらい、大胆な題材選びが必要かもしれません。

孫次郎暗殺剣 秋保山人

江戸時代の雰囲気、言葉遣い、たたずまいがいい。しかし、出来事が小さく、物語の筋が単調。人間関係も微温的で葛藤などが薄いように思いました。

老犬介護 秋吉福朗

文章は上手です。一方「老犬介護」が上手くいかしきれていない気がしました。前半部分は読みづらく、退職願を提出する以降の、犬との共同生活といった後半の描写はよいと思いました。ここがもっと読みたかったです。

薬と嘘とカウンセリング 朝霧かいり

カウンセラー・虚間のとぼけたキャラクターと助手になった灯美のコミカルなやりとりが面白い。7話の連作はそれぞれのレベルにかなりの幅があり、後半にいくほどストーリーが練られている印象だ。

地球のほとり 朝日奈ミチル

想念を見る能力を持った子供たちが真相を追うというストーリーは面白いが、折角のそれらの能力をもっとうまく活かす手もあったように思う。物語の求心力となる謎にももう少し魅力が欲しい。

ひとひらの桜 麻宮 好

二組の夫婦の対比と構成、文章がよかった。冒頭のシーンを最後に読者にちゃんと思い出させてくれる。ただそれぞれの心情や考え方が現代的すぎる印象もあった。また藩の役目などについての掘り下げが足りない気も。

ルナティック・ガールの憂鬱 東 哉汰

雑多な渋谷の空気感、ドロドロとした雰囲気、物語の情景が読みながら伝わってくる筆力を感じました。結末が甘く、一人の男を追い続けた結果、〇〇だったというのはよくあるオチではあるため、横軸での拡がりがあるともっと良くなると思います。

雪の降る日に烏が飛んだ あと

不思議なストーリーで、冒頭から一気に引き込まれました。「おまじない」をかけられて以降の、中盤から終盤にかけての緩急があるともっと良くなると思いました。

寂しい犬の夜 安孫子正浩

設定がおもしろく、読ませる筆力も感じられるが、キャラクターの書き分けがうまくいっておらず、本筋の謎を物語とうまく絡められていない点も残念。放り出したようなラストももったいなく、やや重ためのテーマであるならば、きっちり答えも書いてほしいところだった。

穴の月 雨音朔子

読み味がよく、意外性のある設定も、するすると読み進められました。これは才能だと思います。ただ、主人公が7歳の子になったわりにリアクションが落ち着いている。もとに戻りたい主人公の焦りや葛藤をもっと序盤から織り交ぜたほうが、リアリティがあったように思います。

常春郷 雨柳知畝

ツメタガイ、アハゴンといったキャラクター作りはよかったです。時代背景の描写が欲しい。後半にかけては、やや読みづらくダイナミックな展開に期待したい。

境界の番人 暗 一幸

誤字脱字やヘンな造語だらけなのにストーリーや幻想的なイメージには惹かれた。ただ肝心の、主人公の子どもを身ごもって我が身を犠牲にした恋人の気持ちにはもう少し説得力がほしかった。

絶命剣『死狂』 安東陽介侍

勢いがあり、やりたいこと、書きたいことがたくさん詰まっていて、熱を感じられる。ただ、展開が一本道だし、フィクションにするならもう少し徹底し、変に小難しく書かず読み手を楽しませるような工夫をしてほしかった。読んでいて気持ちいい瞬間をもう少し作れれば、ぐっと爽快な活劇になったのでは。

性殺世脱 飯田 団

高齢者の性の問題と、主人公がさまざまな女性と遍歴を重ねていく展開がうまくリンクしていて読ませる文章になっている。欲をいえば、主人公の悩みや迷いのような、話を貫くような一本の筋がもっとあった方がよりまとまった話になったように感じた。後半は、少し性急すぎるのもややもったいない。

金魚鉢越しに映る君 井川椋介

荒唐無稽な設定なのに引き込まれてしまう。会話の掛け合いなどもよいし文章がスムーズ。読後感もいい。全体的に順風満帆に物事が進んでしまい、主人公の勘違いだけではなく、ひとつかふたつほど何か事件が欲しかったのが惜しかった。

走れ、ヒロコ 石岡志動

冒頭の試合シーンはこれから何が始まるのかワクワクするし主人公のキャラクターもよかった。ただその後の展開にあまり起伏がなくて残念。せっかく強くていいキャラなのでもう少し後半にむかって前向きになってほしかった。

過現の祈り 板谷阿礼

中東での拉致、解放というテーマは興味深く良いと思った。が、冒頭の「幻影」部分を含め、文章全体にわたって、少しずつ言葉の意味や使い方がずれていて読み進めるのに苦慮した。一文一文、きっちりと磨いていく必要がある。

プロポーズ 一乃智也

小説の作りが現代的(今っぽさを感じる)で、歌の歌詞や細かな仕掛けが散りばめられてよかったですが、展開が割と都合よく、音楽活動においての葛藤があってもよいと思いました。

透明人間ども集まれ 五日 一

序盤の、時代を追って説明していくところと、現代の主人公の身に起きた出来事が交互に説明される構成は、読者を引き込むのでよかった。ただ途中から設定の説明が物語に乗せきれていないのと、ラストの収拾が雑になっているのが残念。

ダイバー 井上大輔

書き方に勢いがある。始まりも十分、読者を惹きつける。だがアイディアはどうしても過去作品を連想させてしまう。夢や一人でいる場面は描写が入るが、他者といる場面では会話ばかりでトントン拍子に話が進むのも上手いとはいえない。

ファントム/カラーズ 入山乙傘

数多くの登場人物たちをそれぞれ造形していく力や伏線の張り方、たたみ方は新鮮でテンポ良く楽しませてもらったが、結末のちょっと短絡的な(書き急いだ感じもする)経緯による悲劇的結末は、因果がめぐるような凄味もあるものの疑問が残る。

フロート/五月のドロップ 薄月 直

視点を切り替えながら進む構成は、うまくアクセントが利いている。嘘を抱えたまま生きる主人公の葛藤と、過去の同級生失踪事件の組み合わせもよく、先が気になる魅力もある。しかし、肝心の謎の解決がかなり安直で、肩透かし感がすごい。読み手を驚かせる企みがもっと欲しかった。

合成獣キメラの棲み処 卯月 慶

着想はおもしろいものの、どうしても既存の漫画やアニメ作品を思い浮かべてしまい、既視感がある。アイディアの割には文章が古く、ミスマッチ。視点やシーンがころころと変わるのも気になった。

泣くな、ばか。 押見しほり

男女のすれ違いはともすると陳腐になりやすいところだが、切実な筆致がよい。中心となる男女の周囲にいる人物の心情や背景がよかった。少女から大人になるにあたって変化する環境や心情はもう少し書き込んでもよかったのでは。

不死の谷と火の仮面 大岡俊彦

シンイチとネムカケはキャラが立っていて、二人を中心としたバディもの、ファンタジーの物語として楽しめた。一方、一話目から通底するSF設定や不死を望むストーリーが、物語の雰囲気にあまりハマっていないように思えた。

茜空 大貝魅皇

文章は情感豊かで江戸人情ものらしい雰囲気がある。葛飾北斎などの実在人物も物語にほどよく絡んでいる。難点は展開が遅いことと人物がやや類型的なこと。桔梗の出自に関してなど、もっとストーリーを動かしてほしい。

戦国醤油武将―飯田市郎兵衛物語― 大西真琴

上杉の隆盛と醤油作りを関連させる題材の選び方は秀逸。ラストのシーンも感動した。一方説明の重複が見受けられる他、戦のシーンと比べて醤油のドラマが少し薄い。失敗は重ねるとは言え、成功への道筋が単調だったのが要因か。

ザ・サンデイ・トリッパーズの逆襲 おかじまたか佳

スピード感のある展開で、元バンドマンのヤクザなど、キャラクター設定も魅力的。重くならず、エンタメとして終始徹底しているのもいい。しかし、肝心のギター強奪の一連の展開に工夫がなく、都合よく運びすぎな印象。もう少し特定のキャラクターにフィーチャーしたほうが、より読み手も感情移入できてよかったのでは。

小夜 儚き残光 小川 悠

敵役の佐田玄蕃の強さと技、戦いの描写に光るものがあった。だが、小夜が鹿之助を思う気持ちと行動は極端に過ぎるし、結末も中途半端だ。地の文と台詞で同じことを繰り返すのはやめたほうがいい。

蒼海を拓く・兄弟の誓い 小川 悠

若さと、多少の新味を感じさせる海賊時代小説。見せ場、山場の作り方、人物造形、構成、そつがなく読みやすく、リーダビリティが高い。主人公の冬康が最後までべらんめえで、これはこれで良いのか……? この著者なりの「味」が出るともっと良いのだが。

蛇女 主計 亮

テーマ、トリック、主人公の設定などに新しいものはないのに、読者に前に読み進めさせるエンジンを感じる。「蛇女」の悲しみ、絶叫がしっかりと聞こえてくるからだろう。構成はかなり工夫が必要、最後も急ぎ足過ぎる。ライターの性格があまりにねじれていて、かえってリアリティがない。

豆州山葵発祥伝 葛麻吏旺

実在の人物をもとに書かれている。現金で情の薄い主人公が、山葵づくりを通じ、人の情けに目覚めていく、というテーマが横たわるが小粒感が否めない。冒頭、中盤、敬語の使い方がごちゃごちゃで混乱する。時代小説では、表現を砕いても敬語の上下は動かしてはいけない。

ナギ 川口 恵

関西弁の温かさをうまく利用した安定感のある筆致。母親にネグレクトされ性暴力にさらされながらも屈することのない少女ナギと周囲の大人たちの間の軋轢が、同級生で彼女の最大の理解者である少年の目を通して描かれる。その子どもながらのフェアさ(うっすらと大人目線がにじむが)と思いの深さが胸に響く。

ゲオルギオスの赤いバラ 河村 隆

きちんとまとまっている作品だが、主人公に熱さがないのが気になった。途中途中、国際情勢のお勉強のような部分も多く、参考資料が多いことが裏目に出ている。フィクションの場合、きちんと消化して物語として血肉化して欲しい。

ゼンパンク 菊池俊平

自由な発想で描かれる物語は型破りで読んでいて楽しい。しかし、全体的に物語の展開、人物造形、人間ドラマが薄味に感じられる。修行過程も順調で困難がなく読み足りない。また、悪役の魅力ももっと増やして欲しかった。

バスケットボールの福音 岸田智明

文章でプレイを説明するのが難しい競技を想像させる描写力。監督の謎、問題児の登場など、一年間の少女たちの努力のなかで起きる事件のバランスもとてもいい。くすりとさせる文章も気持ちがよい。視点の切り替えは少し工夫が必要かも。

フールズ・ジャーニー 絹田 麻

いきなり死体が落ちてそれを発見するとか、出会ってまもない女性のために通報せず一緒に逃げるとか、ありえないだろうという設定だらけ。だが逆に、意外性はあり、梗概で流れを知っていても、時々ドキッとさせられる。

みさき 霧崎才太郎

最後まで、一貫したテーマで読み味もよかったです。イラストレーターの事情を取材した上で、自分の筆で書けている。視点人物が入れ替わる工夫も、本作では効いていました。

江古田マンション物語。 鵠 更紗

主人公に好感は持てる。が、どこかで聞いたようなストーリー。書き方も、起こったまま、主人公が見たまま、感じたままを順番に書いているだけで、捻りがない。もっと場面の出し入れを考えてほしい。

悩みの種は美しく咲く 草野遼河

アパートの住人4人がうまく書き分けられており、会話にはユーモアがあって面白い。しかし、各人の悩みは大きく展開するわけではなく、全体として小粒な作品に納まってしまっている。事実関係の推敲も足りていない。

天誅組合 くしま最西

発想が面白い。私刑のエグいシーンも真正面から描写し、露悪的ではあるが読ませる。だが平凡な青年が殺人フィルムに協力し、無人島にも行くのがどうしても納得できなかった。キャラクター・デベロップメントを考えて。

ミラルとビリーの記者活動 黒依ハル

ファンタジーの世界の中で、日常の謎を展開し、やりたいことができているように思う。キャラクターも立っている。マドレーヌのキャラクターがやや薄く、全体を通したときに一つのお話になるような仕掛けがあるとより良いだろうか。

コバルトの赦し 黒崎 曜

文章が上手く、描写もしっかりしていて読みやすい。前半の、恋人との話に比べると、ウルクンドは調べた感が出てきており、分量的にもバランスが悪い。突拍子もない設定もある割には、出てくる人間がステレオタイプばかりなのもマイナス。

夜更けの町で口笛吹いて 黒澤主計

恐怖心が欠如している、という主人公像と文章の落ち着いた雰囲気がマッチしていて、しっかり世界観が構築されている。しかし、中盤から神様の設定が活かしきれなくなり、記憶の抜け落ち具合など、書き手にとって都合のよい設定でしかなくなってしまったのが残念。

足下の月 くわがきあゆ

無駄な描写がなく簡潔にまとまっていて、終盤のたたみかけるような展開には勢いがある。しかし、すべてにおいてうまく話が進み過ぎているように思えてしまう。伏線への労力や、人間ドラマにもバランスよく注力して欲しい。

竜を飼う 剛 智

竜が出現するという話。亡父の隠し子を名乗る兄の存在。どちらもおもしろいが、二つが合わさった時、リアルと虚構のバランスが悪い。

深くて惨めな暗い森の底 柴門秀文

ハードボイルド風の作品の雰囲気は好感を持てますが、全体的に淡い。物語を通して問いたいテーマがわかりませんでした。

アバウトアガール 榊 敬介

18歳と28歳を並行して書く構成で、適度なユーモアが効いていてスラスラ読める。だが、亮太が祐子から離れなければならない理由や、祐子がストリップに転向する際の心情や葛藤など肝心なところが書ききれていない。

カーボンナイト2020 桜 花夜

義足とパラ競技という最初のテーマと、バスジャック事件という別の物語が合わさってしまった印象。義足技師の女性と主人公の会話や義足製作会社の社長などのキャラクターはよかったので、こちらを掘り下げてもよかったのでは。

白き叛逆と 篠城 暁

ルームシェアしている4人の学生キャラクターがうまく書き分けられており、特にリーダー格の洛の個性が光っている。盗聴器を衣服に仕掛けたり、他人をスマホで退学させるところはリアリティーが欠けている。

愛(AI)先生の憂鬱 しかたわに

教師として優秀な自立型AIの女性型アンドロイドの思いがけない人間臭さは面白いが、章ごとに課題が出てきてその都度彼女の見事な対応によって収束したり、子どもたちがアルファベットで描かれたりという書き方が全体としてフラットな印象を与えている。

炭火 志賀ラミー

性描写にとてもリアリティがあり、それが主人公の考え方にしっかりと結びつく形で描かれて、すっと入っていけた。描写やセリフにきらりと光るものがいくつもありました。ただ、物語の展開や世界観に多少既視感が否めず、早い段階でオチの予想がついたのが残念でした。

遠い約束をうたって 四ノ宮多聞

不思議な透明感のある文章から立ち上がってくる情景は惹きつけられるものもあるけれど、ナルシスティックな書きぶりが鼻につくことも。前半の奇妙なやり取りの謎を解いてくれる、サツキとユウが境遇を入れ替えて生き直すという設定が、ちょっと安易で説得力に欠ける。

Mathematical love 上海公司

数学が苦手な男子生徒が少女に導かれファンタジーの世界へ行くという設定は、とても可能性を感じさせるアイディアです。ただ、肝心のファンタジー世界での出来事が少しわかりづらく、魅力に乏しいように思います。奇抜な発想だからこそ、物語にそれをなじませ、読者にしっかりわからせる工夫が必要だと思います。

夏生 少海

会話が一文一文短いためか、最後までテンポよく読めました。亜条摩鬼人を始め登場するキャラクターも魅力的で(名前はもう少し覚えやすい方がよいかもしれませんが)アングラな雰囲気もしっかり作れている。「息子」との記載が多くやや気になる。

月影に走る 白石竹彦

クラシカルで読みやすい。話の運びも破綻がなく、パラリンピックに向けて時宜を得ており、盛り上がるところは盛り上がって楽しく読んだ。ただ、最初読んだだけでラストまで何が起こるかわかってしまうのは残念。また「今」の若者の言葉ではない。

半生記 周防准紀

終盤まで、繰り返し同じ描写が続き退屈になってしまう。物語の中盤に、緩急が欲しいです。性描写が多く、新人賞向きではないため書くテーマを一考した方がよいかもしれません。

偶像ゆめの中 すでおに

デビュー直前のアイドルの死の真相に迫っていくルポルタージュ風の筆致は魅力的だが、証言が集まって真相について判断するのが作者の都合になっているのが弱い。

利休/果てしなき前衛 外海 謙

冒頭に処刑の場面を持ってきたことで全体の見立てがわかってスタティックな印象になってしまっている。その後に展開される折角の人間ドラマが図式的に感じられるのがもったいない。

コットントン ~堀留町二丁目どん詰まり問屋物語~ 高瀬乃一

文章もキャラクター造形もプロレベル。史実や実在人物も絡めながらうまくドラマを作っている。序盤の展開が遅く、ややお勉強感がある。時代物としてのリアリティーに疑問もあるが、お仕事小説として面白く読めた。

つぎはぎはうす 高橋 末

文章が小気味よく、テンポよく読み進められる。からっとした雰囲気があるので、関係性としてはどろどろしているはずなのに、爽やかに読めるのがいい。しかし、あまりにも展開が遅く、中盤からだれてしまうのが残念。もう少し読み物としてのサービスが欲しかった。

アンチロイド 竹内惟人

終盤の展開に読み応えがあり、ラストはほろりとしてしまった。難病ものに追加されたSF設定に著者のオリジナリティがあるが、もう少し詰めた方がよいだろうか。また、中盤にかけて、もう少し読ませるトピックが欲しかった。

幻影の匂い 橘 霞

謎が引っ張るリーディングはうまい。ラストまで破綻なく読ませる筆力に次作を期待する。あとは肉付けの仕方を研究されたい。例えば親との関係をもっと使うと作品に厚みが出るし、同僚たちが嫌なものでも見るように主人公に接してくるのは違和感がある。

双子の長靴と非日常 玉置麻莉

双子の少女が主人公でそれぞれが別の世界へ行くという設定はとても魅力的なのですが、文章で読むとどちらがどちらかどうしてもこんがらがってしまいます。双子の置かれる設定が近くなるのであれば、いっそくどいほどに二人のキャラクターを書き分ける工夫があってもよいかと思います。あるいはそれぞれの視点のシーンを作り、考え方の違いを明確化しても。ただ、謎の長靴で水たまりを踏めば、向こう側の世界に行けるという発想はとてもユニークで魅力的でした。

ジャスト イン ア ディケード 田村瀬津子

兄妹の禁断の恋愛あり、LGBT問題あり、性転換もあり、三角関係もありと、一見盛り沢山に見える要素が破綻なくまとまっていると感じられた。人物の心理描写も丁寧。ハナのレオへの思いを序盤からもう少し感じられても良いだろうか。

雨に撃たれて とざきらっこ

野生児の言語の習得と、惑星が地球に直撃する危機というまったく異なる事柄を関連づけようとするアイディアは評価するも、キーマンの黒木がことさら久山に事実を隠し、アキカズくんに敵対的に振る舞う理由がわからない。また野生児の正体がわかってからはウイルスの散布方法や肝心の惑星直撃の問題はどうなっているのかなど息切れ気味。

コモン・ディスティニー 豊田弥生

軽い読み口のSFで読後も良く楽しかった。ただ警察小説としてもツッコミどころが満載で、SFとしてもぬる過ぎる。そのどちらも気にならないような強烈な仕掛けがあれば欠点をスルーできるかもしれない。

つよいかぜ 中居真麻

夫側・妻側それぞれの心情描写が秀逸で、どうなってしまうのか、という先が気になる展開をうまく書けている。脇のキャラクターも存在感があり、ラストにひねりもあって完成度が高い。物語が少しありきたりのテーマ過ぎるのが、ややもったいないかも、という気もするので、もっとオリジナリティを発揮してもよかったかも。

ヨーイ、ドン 長尾采美

主人公の父親への思い入れ、影響の受け方、心配してくれる先生や友達など周囲の人々への反発など、ちょっと子どもっぽい感じがしたものの、ディテールを丁寧に積み上げ、周囲の人物にも丁寧に目配りしてそれぞれの微妙な心理変化にしっかりしたリアリティを獲得しているところには魅力を感じた。

ただの思い出ばなし。ただただ異常な思い出ばかり。 中川祐樹

青年にしか見えない白寿の男性。鯉との間に生まれた子供。設定は魅力的なのに、思い出話に終始したのは残念。話を聞いている男性にも魅力がなさすぎた。

源氏秘帖譚 夏山かほる

着想がとにかく秀逸で、先が気になる展開をしっかり作れている。仲間が何でも知っている点が都合がよすぎでやや気になるものの、中盤などで動きのある盛り上がりどころがあるのもいい。もう少し主人公の父を助けたい、という思いの切迫感が出るとよりよかったかも。

万象の樹 西川達也

非常に練りこまれた世界観で繰り広げられるドラマは、とてもユニークな才能を感じさせました。この世界観を、より多くの人に読ませる文章や構成の工夫があるとさらに良くなると思います。

朱里の燈るハロー 虹乃ノラン

破綻なく読めるし、主人公の女の子は素直で、応援したくなる。だがどこかで予定調和的で、すべての展開も登場人物も、予想の域を出ない。メールプログラムが洗練されている割には、生活の他の面が古臭く、時代設定が不明だった。

エクストリーム外道伝 袴田敦史

密度の濃い文章だがリズムが良くて読みやすい。各キャラクターにはリアリティーがあり、陰影のある内面までがうまく表現できている。だが、物語は長編としてはやや物足りない。この先をもっと読ませてほしかった。

SAMURAI 支倉 瞬

単なる成功物語を描くのではないという姿勢は評価。全体的に人間ドラマも人物造形も各々のストーリーもあっさりしすぎていて、読み足りない。文量的にまだまだ余裕があるので、もっと書けるように思えるのが惜しい。

ペンダントの奇跡 支倉龍一

恋愛の三角関係の話はよくあるが、本作のラストで明かされた関係性は意外だった。しかし、がん研究のことも恋愛のことも順当にうまくいきすぎるきらいが強く、ファンタジーに思えてしまったのが残念。もう少し人間ドラマに厚みを。

鯉の棲む池 羽床上華世

冒頭や舞台設定などが魅力的で、どんな風に話が展開していくのか、という期待感を持たせるが、物語に大きな起伏がないため冗長になってしまっている。真相はややありきたりではあったが、グロテスクな面や狂気を感じさせるだけに、もう少しスリリングなストーリーにしてほしかった。

守りたきもの 氷月あや

挑みにくい時代と土地、馴染みのない名前を読者に伝わるように描き切る力量はすごい。親子の確執もよかった。中盤でリーダビリティが停滞してしまったことと、巨大な大地なのにスケールの大きさを感じにくかったのが残念。

Sparse River 兵頭浩佑

とても大きな挑戦をしている作品だと思う。描こうとしている物語や見せ方、構成などがとても面白い。ただその一方で作者の実験に読者が振り落とされそう。読者の気をひき続ける工夫があともう少し欲しかった。

Youthful Film 深井 眠

まだ20代にもかかわらず、しっかり自分の周りの世界が見え、それを言語化する才能があふれているように思いました。きらりと光る文章も多かったです。ただ、主人公の独善的な視点を、作者がもう少し客観視するような距離の取り方が欲しかったように思います。女性の描き方が男に都合がよいように書かれているのも気になりました。

犬と十字架 深田羊慈

キャラクター同士の思考や会話、認識をめぐる話などは面白い。一方、根幹をなす世界観と設定を序盤でもう少し説明して欲しかった。また、問答や説明だけではなく、もっと出来事を展開することで物語を動かしていって欲しい。

さよならの処方箋 藤田道子

動物の描写が上手く、題材がペットの安楽死なだけに、抜群に泣かせる。飼い主が一様に個性的なことと、ケースは多いがテンションが一定なのが気になった。かわいそうな動物、という設定に頼りすぎではないか。

マイナス百九十六度の棺から 藤ノ木 優

不妊治療というテーマを扱い、家族、血縁、性暴力といった内容を正面から描いた問題作。登場人物もそれぞれ魅力的だが、展開が読めてしまうところがあって構成としても予定調和めいた印象が否めない。

画仙紙に揺れる影 冬樹眞沙

この物語で描いている時代背景(文久)、絵師の生き様は史実に基づいてよく調べて書けていました。その分、地の文が説明的になり、物語の良さをそぎ落としてしまっているのが気になります。地の文を削った上で、会話文の量を増やすと格段に読み手の印象が変わります。

空ノムコヲ 冬乃 雀

冒頭、文意が掴みづらい描写が続き辛かったが、途中から、設定の甘さがあるとはいえ独特な世界観がこちらに浸透してきた。面白いシーンなどは出し惜しみしないで、構成、細かな設定を読者目線で再考すれば、頭一つ抜けるのではないか。

戦国河内切支丹 別当 七

物語の構成はしっかりしているが、史実に基づいている分、地の文が説明的。登場人物が非常に多く、やや盛り込みすぎている印象。

ロンリーパレットの世界基準 星合知大

独特の設定に引き込まれた。主要なキャラクターも立っている。終盤のオチはひねられているが少し複雑で、もう少し説明が欲しく感じられた。また、犯人を追い詰める過程や動機の発覚の場面はやや駆け足気味だったように思う。

独り者の縁の神 益田 昌

発想はおもしろいものの、キャラクターも展開もややありきたりで、先が読めてしまうし、新鮮さがない。次々に視点が変わってしまうのも、人物の心情を想像する余白がなくなってしまって逆効果かも。読後感はよいだけに、残念。

我が槍、ご照覧あれ 松岡真平

歴史上、魅力的な登場人物のはずなのに、歴史の説明とエピソードのバランスが悪く、入り込めない。一つ一つのエピソードもテンションが同じで、どこを読みどころとしたらいいのか、分からなかった。

柿と橙 御木本和香

文章はプロレベル。史実を交えてうまく物語を作っている。於輝と所左衛門の関係が面白く、おちょうも作品の中で生きている。問題は構成で、登場人物、視点人物が多いため、ストーリーが散漫になってしまっている。

美桜 実澄 彩

胸にグッと迫るラストまで読ませてしまう構成には確かな実力を感じるが、母親の人でなしぶりに比べて肝心の姉の人物像が通り一遍のいい人になってしまったのが作品のインパクトを弱めた。タイトルも焦点をぼかしている。

終わらない街『異端のアキラ』 緑川赤城

漢字が多いこと以外は文章もうまく、「何かが起こる」予感を出せるような書き方は秀逸。企みがあるのもいい。残念なのは、その企みが成功していないこと。もっと謎をたたみかけて、物語を展開させてほしかった。

飛ばされ侍と、うらめし大名 水無月神野

軽妙な筆致といきいきとしている登場人物たち、構成がよく一気読み。ひねた主人公、ひねた当主、それぞれの変化と、襲う危機など飽きさせない展開がとてもよかった。ただこの時代では使わないであろう言葉が多いのにはひっかかった。

裸の心 箕輪尊文

新人とは思えない筆力、地の文以上に会話の語りがよい。自然と物語に浸れる。細かな箇所ですが、ブログを生業とする「アルファブロガー」は昨今あまり聞かなくなったため、少々古さを感じる人はいるかもしれません。

ラストてんぐ 宮長知広

奇想天外なアイディアを、しっかりした人物造形や心理描写で破綻なく面白く読ませる。後半、主人公がずっと同じことで悩むあたりから減速した。ラストのトラブルはスケール感があって既視感のないものにして盛り上げて欲しい。

深紅の軍服の英雄 宮水たけのり

時代背景、主人公の恋と役目、それぞれの色合いをしっかり描きながら、両輪で物語を進行させる力量。文章もよどみなく、展開にも無理なく読後感もよい。しかしキャラクター、特に女性キャラの造形がどこか既視感があるのが残念

寄り道 宮脇誠世

剣道のシーンやそれに関係する描写には、非常に説得力を感じました。ただ、小説として剣道そのもの以外の要素を中心とした人間ドラマをもっと入れたほうが、より多くの人に楽しめるものになったかと思います。

喜劇的☆マ☆テキテキ 村崎羯諦

独特の人物造形やシュールな設定でそこはかとないユーモアを醸しつつ、思いがけないというか奇想ともいうべき構成を考えついてしまうのは面白い才能かもしれないけれど、読者に何をアピールしたいのかまだしっかりと考え抜かれていない印象。

向かい風に旗は靡く 毛利大一郎

生き生きとしたキャラクター造形は魅力的で、読後感もいい。ただ、あちらこちらに話が散らばってしまったせいで内容が薄まってしまったのが残念。主人公と木村の二人に絞るなど、厚みを加えたうえで、もっとそれぞれの心情を知りたかった。

祭典の影で 森園知生

読みやすい文章と展開で、最後まで安心して読めました。オリンピックと学生運動という二つがもっと密接にかかわってくるとよかった。選ばれた題材一つ一つが非常に大きく重たいので、家族三者が交差する物語ではなく、一人の人生を濃厚に描く構成にしたほうがよかったのでは。

鳥たちの寝床 保木和彦

ダメ人間のダメさが良く描けている、描写や比喩も良し、スピード感あり……と期待して読み進めたら、一転、お遍路観光小説になってしまった。蕪橋、登場は恐ろしくて素晴らしかったのに、急にトーンダウンして良い人っぽくなったり。書きたいものがちゃんとあるし、センスも良いので頑張ってください。

アナザースカイ 柳永千哲

きついシーンを描ききれている。一方、地の文での登場人物の説明パートが長く感じられるところが多い。結末は村主と奈々、空をもう少し絡ませる方向の方が盛り上がったかもしれない。

利用する奴される奴 山中ふじお

梗概の方が小説らしい文体、形式で面喰らった。なぜ1行1行改行するのだろう。「私はあなた。あなたは私」というテーマは王道のひとつだが、そこに至る道筋がシュール過ぎる。特に手記の部分。

マッコウ鯨は緑茶の夢を見るか? 有斗美暁生

冒険譚としてとても面白かった。少し都合よくうまくいきすぎる点はあるが、いずれ緑茶の話に繋がるのだろうという期待で引っ張られる。途中そこまで移動する必要があるのかと疑問。中盤でも日本との接点があってもよかったのかもしれない。

君が君らしくあるために 僕が僕らしくあるために 雪追 舞

瑞々しい高校生の切ない時代を切り取る筆致に好感をもった。2月29日という日付の使い方はよかったので、もう少し押し出してもよかったのでは。全般的に既視感が強いストーリーなので、何か強いオリジナル要素を入れるべき。

Licht 雪白 楽

設定が緩く既視感があるが、キラッと光るセンスがある。AIが感情を持ったらどうなるのか、というお決まりの問いに対して、この小説のラストが答えになるのか。あまりに人間に(というか著者に)都合の良い結末ではないか。

陽に照りし影 利ノ蔦マジト

丈吉のピンチに、ひと回り大きくなった栄助が駆け付ける場面は読み応えがあったが、そこを全体の山場に持ってきても良かったか。描写が抜けているために場面がイメージしづらかったりするところなどは、読み手目線で執筆を。

ファーレンハイト ワシズアユム

さらさら読め、書き慣れた感じのする文章だが、頭で考えたプロットがうまく血肉化されていない。全く同じ表現が4~5回頻出していて、推敲されていないと感じた。いちばん気になったのは、子どもの親が死んだシーンや失踪したシーンの軽さで、それはそのまま命を軽く扱っているように感じられる。