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第66回江戸川乱歩賞
2次予選通過作品の講評と最終候補作

第66回江戸川乱歩賞
2次予選通過作品の講評と
最終候補作

※新型コロナウイルス感染拡大予防の観点から、当初「第66回江戸川乱歩賞1次・2次予選経過発表および最終候補作」を掲載予定でした「小説現代6月号」が発売延期となりましたため、急遽こちらのHPで発表させていただくこととなりました。応募者の皆様には謹んでお詫び申し上げますとともに、ご理解のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。

第66回江戸川乱歩賞は、2次予選を通過しました21編から、4編が最終候補作として審査されることになりました。最終候補から惜しくももれた作品については、下記に講評を記します。
(予選委員は1次、2次同様、香山二三郎、川出正樹、末國善己、千街晶之、廣澤吉泰、三橋暁、村上貴史の七氏です)
なお、受賞作品と、選考委員の選評は6月22日発売予定の「小説現代」6・7月合併号に掲載されます。

最終候補作

「ブルー オン ブラック」井上 雷雨

「エスカレーションラダー」小塚原 旬

「わたしが消える」佐野 広実

「インディゴ・ラッシュ」桃ノ雑派

2次予選通過作品の講評

「蝶ノ目の綵絵」祐光 正

時代考証が緻密で戦中戦後の混乱を使った仕掛けも悪くないが、主人公が歩けば証拠が手に入り、一般的でない情報で謎解きが行われるのはミステリとして弱い。別の賞で落選した作品を改稿して送るのはルール違反ではないが、新作より不利になることは覚えておいて欲しい。

「椿心中」碧 きょう

無意味な一行空けや一文毎に改行することで水増ししてようやく規定枚数に達している点は大きなマイナスポイント。まずは長篇を書く基礎体力を養うこと。昭和初期に始まる物語だが時代の空気や生活感、肌触りなどがまったく書けていないのも大きな瑕疵。

「積み荷の分際」神原 月人

シリアスなストーリーなのに、AIのキャラクター造型がそれにそぐわず浮いてしまっている。やや曖昧さを残した幕切れも、果たしてこの物語に相応しいものだっただろうか。全体に盛り上がりに欠け、個性派揃いの今回の候補作の中では埋もれがちな印象。

「白雲蒼花(はくうんそうか)」山本 篤志

複数の視点人物の配置や過度に有能な情報屋などの設定に著者の都合が透けていたのが惜しい。さらに磨くべき。一方で、中国での映画撮影という題材を十分に活かした点、それを通じて中国の怖さを体感させた点や、さらに全体を通してサスペンスを維持した点は高評価。読み応えは確かにあった。

「コールドケース~ディレッタントの涙」二階堂 歩

ヒロインがいじめで息子を死に追い込んだ者に復讐する物語。ヒロインの息子への執着が強すぎて引いてしまう。復讐譚では主役への共感は必須なので、これはマイナスである。また警察の捜査能力が低すぎる。主役に対峙する側に、相応な力がないと緊張感が削がれてしまう。

「夜の夢こそ」高踏夢 啓

日本に逃亡した切り裂きジャックが犯行を繰り返すという奇想を生かすための舞台を構築する筆力が不足、荒唐無稽の絵空事にしか感じられない。正岡子規を始めとする実在の人物に寄りかかりすぎていて架空の人物の造型の薄さが際立つ。最後の逆転劇も真の動機も安易。

「水のなかの花影」荒井 曜

東京・深川で女性の全裸死体が川に浮かび、警視庁の女刑事と深川署の新米刑事が捜査に挑む。端正な筆致、下町描写が読ませる等評価する声がある一方、無駄が多いとか女刑事の活躍不足、関係者が皆死んでしまい、スッキリしないといった批判も。評価が割れたのが最後まで響いた。

「迷宮パノプティコン」榊原 修一

企業の研修施設に集められた中堅社員が殺されていくのだが、研修そのものがコンプライアンス違反な上に、事件発生後の社員たちの対応も常識から外れていた。特殊設定を用いるのであれば、その特殊性を納得させるだけの背景を作る必要があるが、それが出来ていなかった。

「総統夫人の金塊(ごーるどばー)」光月 涼那

宋美齢の遺した金塊をめぐる暴力団や台湾の特務機関との争奪戦。こうした状況に立ち向かうのに、ただの英語教師である主人公は非力すぎないか。バランスの悪さを感じた。関西の街並み等を描くリアルな筆致は良いので、物語の枠組みをじっくり考えて欲しい。

「棄てられた償罪」早坂 弘之

連続した殺人事件の被害者が皆善人という魅力的な謎や、複数の印象的な脇役、地方都市特有のロジックや圧力の説得力など、素材はよかった。前後半で位相が変化する物語の整理や、主人公(脇役のほうが魅力的)とクライマックス(平板だった)の強化をすれば、もう一段階輝いただろう。

「白血のキメラ」平野 俊彦

背中に24本の針を刺された死体の謎を推す声もあったが、その24本を「無数」と書く無神経な表現には疑問を感じる。通りすがりの人物の証言で物語が進むなど、偶然に依存した展開も減点対象。「犯人は自分か?」という視点人物の驚愕が抜群に刺激的だっただけに残念。

「流れ星のテロル」清水 更

大きな欠点はない。キャラクター造型もストーリー展開も及第点(特にマークというCIA局員の造型は面白かった)。かといって、他の候補作と比較した場合、ずば抜けて秀逸な部分があったわけでもない。達者な結果「すべてが平均点」になってしまった印象。

「シャウト・アット・ザ・スカイ」才川 真澄

雪の山荘で孤立した音大生たちが過去と現在の事件に挑むのだが、恋愛や将来への不安などが描かれているのに、それらが謎解きにからんでおらず青春ミステリの持ち味が活かせていなかった。犯人の動機も、これだけの事件を起こすにしては説得力を欠いていたのは否めない。

「絡繰は井伊家を嘲笑(わら)う」茜 灯里

最終候補を選ぶ段階で不利に作用したのは、“ミステリ”というよりはミステリの趣向もある“時代小説”だからです。ただし時代小説としての出来が悪いわけではなく、予選では積極的に評価する声もありました。主人公が泣き過ぎるのは、再考の要ありですが。

「GAME "B"OOK GAME ~ゲーム・ブック・ゲーム~」蒼木 ゆう

亡くなった人気作家が館に隠した、それぞれ十分割された遺稿三篇を捜すという設定は魅力的だが、ゲーム・プレーヤー中に紛れた真犯人の動機に説得力がないため羊頭狗肉の感が拭えない。発端となる人気作家の過去の所業が陳腐で新鮮味がない点も瑕疵。

「宇佐見警部補のけしからん話」岡本 和之

不運というべきだが、モチーフが(モデルになった過去の実際の出来事まで)共通した候補作が他にあり、そちらのほうが出来が良かった。新人賞においてはこういう想定外の偶然も時々ある。筆致はわりと達者だったので、次回作を読んでみたいとは感じた。

「踊る迷宮 ― The Mystery in the Dancing Labyrinth ―」中島 礼心

新味に乏しく、登場人物たちの存在感が薄い。語り口を含め、旧態依然の探偵小説のように映ってしまうことで損をしていると思います。クローズドサークルや密室トリック、性別の錯誤など盛り沢山の仕掛けを活かすため、小説をどうアップデートするかが課題。