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第67回江戸川乱歩賞
2次予選通過作品の講評と最終候補作

第67回江戸川乱歩賞
2次予選通過作品の講評と
最終候補作

※当初「第67回江戸川乱歩賞1次・2次予選経過発表および最終候補作」を掲載予定でした「小説現代6月号」が4月発売の「小説現代5・6月合併号」となりましたため、こちらのページで発表させていただくこととなりました。また受賞作発表と選考委員による講評は「小説現代7月号」に掲載が変更となりました。同内容はこちらのページにも記載する予定です。応募者の皆様には謹んでお詫び申し上げますとともに、ご理解のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。

第67回江戸川乱歩賞は、2次予選を通過しました29編から、5編が最終候補作として審査されることになりました。最終候補から惜しくももれた作品については、下に講評を記します。
(予選委員は、2次と同じく香山二三郎、川出正樹、末國善己、千街晶之、廣澤吉泰、三橋曉、村上貴史の七氏です)
なお、受賞作品と選考委員による講評は6月22日発売の「小説現代」7月号に掲載されます。

最終候補作

「キッドナップ・ショウ」日野瑛太郎

「センパーファイ —常に忠誠を—」伏尾美紀

「ドロップトキシン」水谷朔也

「夜が明けたら」箕輪尊文

     

「老虎残夢」桃ノ雑派




2次予選通過作品の講評
 

「深世界」神原月人

定食屋の息子が海底ケーブル敷設船の厨房で働くという状況設定や、その状況だからこその衝撃的な事件はよい。だが、中盤以降で物語の風呂敷を拡げると同時に、造りの粗さが目立ち始め、物語やキャラクターの独自性も失われていく。自分の長所を最大に活かす構成にすべきだ。

「コーラルリーフ」森繁瑠太

フィリピンのセブ島で進む鉄道敷設計画に日本の光学会社も参加するが、様々な事件に見舞われる。吉田修一の『路(ルウ)』を髣髴させる話。爆弾テロから始まる出だしも勢いがあるが、過去の因縁劇などいかにも古風で、ミステリー趣向もちょっと弱い。

「鶴千代君のために」今津勇輝

臓器移植という誰もが無縁でない題材で謎を作り、それが複雑に入り組む展開には引き込まれたが、簡単に証言する医者が多いのは不自然だ。加害者家族の苦悩、臓器移植の問題、医療倫理などのテーマは悪くないが、盛り沢山で焦点がぼけてしまっていた。

「ゼロサム」才川真澄

基本的にリアリティ重視の世界観なのに、主人公につきまとう謎の女だけが非現実的な描かれ方で少々浮いた印象。とはいえそれが大きな減点対象となるわけでもないが、ミステリとしての意外性はさほどでもないため、加点方式で評価すると損をするタイプの作品。

「夜明けはまだ遠く」一ノ瀬游

主人公は泥棒だった父と同じ道を歩み始めた青年。だが刑務所を出て間もないその父が殺され、彼は真相を追うことに。主人公の暗い心情が描けており、父と息子の二重の巡礼劇にも独自性が感じられた。ノワールとして評価する声もあったが、今一つパンチ不足。

「嘘吐きたちと死にたがりの夜」浅葱惷

まず目を惹くタイトルのセンスと、ネット心中という社会問題をミステリに上手く落とし込んでいる点を買う。やや強引さはあるものの、クローズドサークルの趣向もスリリングだし、ラストの捻りには意表を突かれた。類型的な登場人物と中だるみが課題でしょう。

「嗤うケルベロス」雨地草太郎

乱歩の名作『孤島の鬼』にオマージュを捧げた本格ミステリ。暴力団を得意先とする私立探偵とその相棒が向かった異形の集う島で連続殺人が。際どいテーマを巧みに扱ってはいるものの、クローズドサークルものとしてはちょっとベタな感があるのも否めない。

「さたんのこども」入口トロ

一頁目で読者を物語に引き込む力を感じた。様々な知識をきちんと咀嚼して自分の文で書いている点もよい。台詞回しも巧み。なので十二分に愉しく読み進んだのだが、真相で落胆。一ひねりはしているが、ありふれたものなのだ。ここだけは根本的に改善を要する。

「海鳴りの裁き」末岡光義

近未来の設定に必然性が薄く思えるが、文章は達者で、饒舌な語り口に魅力がある。女性警官の奮闘が成長に繋がっていくのもいいし、脇役の警察官たちもいきいきと描かれています。ただ謎を作り過ぎ、作者がその収拾に苦労しているように思えるのが残念。

「ウルフ・アイズ」小谷茂吉

殺人現場に居合わせた青年と霊視が出来る目を持つ女刑事が組んで事件の謎を追う。読みやすい文章で、構成もしっかりしてはいるが、主役のコンビはライトノベル系の特殊設定ものにありがちな造形だし、終盤のヒネリ技にも既視感あり。

「屍の上に幸あれ」瀬間彰宏

殺人で逮捕された弁護士の不自然な態度を小説の入り口として謎を掘り下げるなか、次々と意外な事実が多面的に判明する展開は見事。物語作りの才能を感じさせた。予備選考会でも高評価。小説としての書き込み過ぎ/書き込み不足を改善すれば更に伸びるだろう。

「ミッシング・ドッグ」椎名勇一郎

架空の県の捜査一課刑事が創設されたアニマル・ポリスに異動させられ、バラバラ殺人ならぬバラバラ殺犬事件の捜査に挑む。こなれた話作りで読ませるし、聴覚障碍者の苦闘を絡ませるなど独自性も打ち出しているが、既存の動物警察ものの枠を出ていない。

「Deep Deep Diver」遠藤遺書

他人の記憶に潜り、記憶を探ったり、消したりできる能力者が主人公。特殊能力の副作用で、潜った人間の嗜好が「残響」として残り、本来の自分が失われていく焦燥感も読ませます。連作短編形式は読み応えの点で不利。文章は上手いので長編での再挑戦を期待します。

「メカニックの瞳」岩魚太郎

電力会社の発電所のメンテナンス現場がしっかり描かれているのはいいけれども、そこに力を注ぎすぎて、実際に事件が起こるまでに枚数を費やしすぎた感がある。堅実さはこの人の作風の強い武器だとは思うが、何かキャッチーな要素も入れたほうがいいだろう。

「悪人の子」遠野有人

いわゆる本格ミステリの要素は希薄ですが、悪の遺伝子をめぐる異色のテーマが新鮮です。文章のリズムも良く、読者の予想を許さない展開もいいのだが、テーマが見えてきた時点での失速が惜しい。まだ荒削りながら、異才を磨いていってほしいと思います。

「墓を掘る男」今葷倍正弥

優等生的な本格ミステリとはベクトルの異なる、何が始まるか予測できない冒頭の掴みからして見事。ただ、そこが説明不足と指摘する声もあった。情景が目に浮かぶ描写の確かさや、共感を抱かせる人物の造形など、小説のスキルは高く、捲土重来を期待します。

「乱歩が運んだ帆船」光月涼那

南北朝鮮と在日韓国人問題を核に個人の復讐と国家の陰謀を描いた物語。それなりに読ませるが、同テーマで繰り返し描かれてきた既存作品と比べて目新しい点がない為、セールスポイントに欠ける。乱歩の絡ませ方が大して効果的でない点もマイナスポイント。

「一握の讀神」小塚原旬

ローマ帝国を舞台にした堂々たる歴史ミステリです。時代背景や実在の人物を作者なりに咀嚼し、物語を構築してみせるストーリーテラーぶりを大いに買いたいと思う。ただ、歴史部分について説明調なのと、ミステリとしての謎が小粒だと指摘する声もあった。

「遠恨」樋口京美

ストーカーやクレーマーといった現代社会の闇を使って魅惑的な謎を作ったところは評価できるが、物語が運と偶然で動くパターンが続くのはご都合主義すぎる。大仰な言い回しがスピード感を失わせ読みにくくもしていたので、表現を検討し推敲も重ねて欲しい。

「パラダイス」相川智絵

生涯を通して一人が使える電気エネルギー量が「電力枠」として設定された近未来、という舞台は興味深いのですが、疑問点も多く、世界が構築しきれていない点が残念でした。作中の詐欺も、現実の引き写しではなく、この世界独特のものにして欲しかった。

「ガス室の殺人」荒野泰斗

新人賞では不利な連作短篇集で勝負をかけてきた意気込みは買うし、ミステリとしても光る発想があちこちにある。だが、架空の国家を舞台にした世界観をきちんと作り込んでいないため、せっかくの発想に説得力が伴っていない。最終話の着地もいまひとつ。

「深海の双魚宮」八ゐ坂鯰

今を意識したITベンチャーのビジネスを描写するシーンが詳細な反面、肝心な物語が平板。子供の頃のDV被害により、殺人に手を染めることに抵抗がなくなったという設定も陳腐。ラストも唐突で、それまでの物語が放り出されてしまっている。

「君はネアンデルタール人」西奈朱久里

いじめ問題をテーマにした警察小説で、手堅くまとめてあり最後まで読ませる反面、新鮮味に乏しい。学校の描写が現実と大きく反し、リアリティを欠く。肝心のネアンデルタール人と本編との絡みも漠然としすぎていて、残念ながら巧く機能していない。

「暗月の格子」木村草子

本格物を丁寧に描く筆致には好感が持てます。基礎はできているので、個性的な探偵など自作を差異化する要素を盛り込めばより良くなります。画家の三十年間のフランス居住について事実誤認があるのでは、との指摘もありました。細部にもご留意ください。