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トップ > スペシャルページ一覧 > 第12回小説現代長編新人賞 1次・2次選考通過作品の講評

第12回小説現代長編新人賞
1次・2次選考通過作品の講評

第12回小説現代長編新人賞
1次・2次選考通過作品の講評

平成29年1月末日の締め切りまでに、郵送とWEBを合わせ997編の応募があった今年の新人賞は、1次選考の結果下記の106編が第1次選考を通過しました。続いて2次選考の結果、太字で示しました18編が選ばれました。以下、応募タイトルと講評を記します。
なお、本誌「小説現代」7月号(6月22日発売予定)に3次選考の講評、8月号(7月22日発売予定)に、受賞作品と選考委員選評を掲載いたします。

非営利誘拐、始めました 阿浦みなみ(神奈川県)

登場人物たちの言動が、ひと昔前の類型的なキャラクター造形の域を出ていない。主人公が社長である実父を誘拐するに至るくだりも、背景の書き込みが足りないので唐突に感じる。登場人物全般に血肉が通っておらず、薄っぺらく見えてしまっている。誘拐事件に依るのではなく、勝気なお嬢様副社長が会社再生のため奮闘する、といったお仕事&家族&恋物語にした方が無理がなかったのでは?

ワールドエンド・リーチ 青木海斗(東京都)

「鬱死病」なる災害が蔓延する黙示録的日本、を旅する二人組の物語。死体がゴロゴロ出てき、かろうじて生き延びた「躁賦者」はゾンビそのもの。南下して種子島に至る二人の旅を、奇数章と偶数章で交互にえがき、終盤でそれを合体させるという構成の劇画的展開は、アメリカのサバイバルドラマ『ウォーキング・デッド』を下敷きにしたかのような既視感がある。この鬱死病なる病、現実にひそかに流行っているようで怖さを感じる。

トシ・ノ・ソト 青峰晶(東京都)

世界規模の核戦争後の日本を描いたディストピアSF。「都市」では身体に埋め込まれたナノマシンのメンテナンスが30歳で止められ、遅くとも31歳までに死ななければならない。それに抗った主人公が外の世界に出て、という物語。面白く読めるのだが、最初に登場した変異動物もそのまま捨て置きであるし、危険な目に遭うこともなく長い距離を移動するなど、細部の詰めが甘い。

丹生島城の聖将 赤神諒(東京都)

キリシタン弾圧の小説はどうしても凄惨になりやすいが、本作はその時代設定を少し前にしたことで成功している。人を描きわけるのが上手く、主人公の悪が聖に変わる部分を面白く読んだ。実在の人物である主人公を見つけたことがこの小説の成功になっていると思う。だが、前半と後半が断絶しているのが惜しまれる。構成を変えて、入れ込む形にするとさらに魅力が上がるのではないか。

士官候補生物語 赤間勇(福島県)

昭和4年、17歳で陸軍士官学校予科に入学した青年が、のちに二・二六事件にかかわっていくという展開なのだが、いくら小説とはいえ、右翼思想もなにもほとんど持ち合わせぬ青年が、かかる大事の引き金を引くとは思えず、読後、何を考えているのかと失笑した。

天使の遊歩道 秋月一成(東京都)

人の心が読める力で他人を手玉に取って楽に世渡りするイケメン医師と、未熟な天使となって生還した准看護師の、なんとも大真面目な「天使と悪魔」的な純愛ファンタジー。しかし、悪魔ぶって世渡りしていた男が、天使のような彼女の愛を前にしておのれのほんとうの姿にめざめる、という話には何の新味もない。

ずっとおまえが好きだった 秋野佳月(埼玉県)

幼い頃、命を救ってくれた翼について書いた物語、という体裁で書かれたストレートな青春小説。エアレースを題材にしたのは新鮮だが、読者を強く惹きつける魅力に欠けるのが惜しい。主人公や周辺の人物のキャラクターは、一見立っているようだが、実は書き割りのようで、印象に残らない。

桃源郷世界 朝日奈ミチル(東京都)

大正という時代設定にすれば、宗教団体、集団催眠、集団自殺という題材がそれなりに新しく響くかもしれないと思ったのだろうが、そんなことにはならなかった。ありきたりの題材をいかに料理するかが作家(とりわけ新人作家)の腕の見せ所。それがなく、ミステリーとしても弱い。

月のうらがわ 麻宮好(神奈川県)

上手いと思った。江戸の市井ものの条件を兼ね備えている。家族、長屋、階級社会、貧富など、現代に通じる問題を上手に溶かし込んで描いている。淡い恋愛ものでもあり、キュンとする場面も多い。キャラクターも立っているが、何人かが途中で消えてしまい、その理由が分からないのが残念。ただ、この世界観は多くの作家がすでに描いていて、その中でどのように独自性を出すかが今後の課題となるだろう。

ダークサイト〜死の女〜 足立皓亮(兵庫県)

出会い系サイト運営会社に勤める主人公が、投稿者の女性と出会ってしまったことから巻き込まれる騒動を描く。胸に「死」という字を自傷した女性と交流したことがきっかけで、主人公の日常が変容していく冒頭部分は面白いが、覚醒剤やヤクザなどの道具立てのせいで、物語が進むに連れてリアリティが希薄になり、凡庸極まりないエンディングに導かれるのは残念。

さなぎのぬれば いいずみまさき(埼玉県)

女優を目指す23歳の女性の話が梗概にいろいろ書いてあり、「一世一代のオーディションが今始まる!」と結ばれているから、オーディション小説かと思ったら、そのあと長いストーリーがあり、どろどろの近親相姦の物語だった。家族内の憎悪や許されぬ愛を描くなら、芸能界を舞台にしないほうが通俗的にならない。煽情的で幼稚な恋愛小説と感じた。

暗明 池上真介(埼玉県)

別々に描かれていた二人の浪人の人生が再び交差した時、明かされる真実――。偶然の出来事などややご都合主義なところと、時代小説の定石を外した言葉遣いなど、粗はあるものの読ませる。ただし、時代ものの2時間ドラマ感はあり、物語自体の新鮮味は薄い。

狐福 池田大信(神奈川県)

壮大な伝奇小説である。日本古代とパラレルワールドを組み合わせ、日本列島の成り立ちまで視野に入れたダイナミックな発想は面白い。だが構成が甘く、本当に描かなければならない場所が少なくなってしまった印象を持つ。荒唐無稽な設定に徹しきれず、タイムスリップSFなのかファンタジーなのか中途半端に終わってしまった。少年少女を脇役にすると、大人の小説になるのではないか。

流星群の降る夜に 石田卓生(福岡県)

海水浴で溺死した母親から5年後に届いたタイムレターを機に、母の秘密を追っていくという物語。不治の病を知ったため、家族の前で事故を装い自殺した母親の気持ちに疑問を感じた。さらに夫が負った借金のため離婚したのであれば、なぜ双子の片方を夫側に預け、その子の存在を隠さなければならないのか。父方の両親にしても妻側に残された孫娘が気になるであろうに。

アユタヤ一番手柄 石埜猛士(石川県)

時代小説を読み慣れ、それなりに書き慣れていると感じられた。ごく一般的な戦国時代小説ではなく、主人公がタイのアユタヤ王国に渡る、という設定にも興味をひかれるものがあった。だが、全体的に教科書文というか、文章そのものの行儀が良すぎて、エンターテインメントとしての緩急に乏しい。出来事+説明+会話の間にドラマを作り、盛り上げる工夫ができるようになると、物語としての魅力がぐっと増すのでは。

貝坂 泉けい(神奈川県)

「仁王立ちで立っている」など、ストーリー以前の問題として、文章が粗雑。また、登場人物の言動に違和感を覚えるところも多々あった。時代考証とは別に、時代小説らしさというものを、もう少し真剣に考えてほしい。精神的な三角関係に忠臣蔵を絡めた物語の大枠はいいので、そこを意識すればもっと面白い作品になるはず。

市のひと 市田市(東京都)

難関大学を卒業したにもかかわらず、国や県ではなく自分の大切な人やものを守りたいから、と市役所職員となった主人公の仕事と、家族の問題を描いた物語。文章的にも大きな疵はなく、お役所言葉や用語も説明的にならず、読者に伝えられている。ただ、物語の舞台が1998~99年あたりなのだが、なぜあえてその時代でなければいけなかったのか、違和感が残る。また、中だるみ感も否めない。バランスは悪くなく、ちょっとしたブラッシュアップで、印象はかなり変わる可能性があると感じた。

被災難妖草紙 今桐継(東京都)

平安時代を舞台に、陰陽師が特殊な能力を使えるという設定のファンタジー。主人公は安倍晴明の息子。安倍晴明という、ある意味最強のキャラクターを用意しながら、魅力的に描けているとはいえない。ストーリーも練度が足りない。また時代色を出そうとしてか、古語めいた言葉を多用しているが、さして効果は上がっておらず、読みにくさがまさっていた。

見果てぬ夢 藺牟田一通(鹿児島県)

麻薬中毒者と犯罪者の虐殺を公約して大統領に当選したという主人公の設定は、現フィリピン&アメリカ大統領を彷彿とさせ、野次馬的興味をひかれた。だが基本的に、説明でしかない地の文+冗長な会話文、という組み合わせの繰り返しで、小説としての体裁が整え切れていないように感じた。ハードボイルド調であるにしても、もう少し読者に読んでもらう、という配慮が必要。

ドメスティックハンガー 伊無田博通(神奈川県)

自治区は大飢饉と疫病で崩壊し、連邦政府は自治区を助けるどころか収奪し続けているなか、一人の少年が荒廃した大地を歩いていく、という設定から既視感がある。少年が何かの運命のなかで探求しながら冒険する話になれば面白いのだが、受け身で、いささかゆきあたりばったりの展開に感じた。

棘人間 入山乙傘(長野県)

他人に読ませる文体が基本的には出来ていると思う。自分は人を疵つけてしまう暴力嗜好者なのではないか、いつか人を殺してしまうのではないかと不安を抱く男が主人公だが、そのような特異で根深い問題を描き切れているとは言い難かった。暴力の衝動をどのように飼い慣らしていくのか、どう対峙していくのかという社会的にも重いテーマなだけに、もう少し踏み込んだ考察が欲しかった。

健全な精神は健全な肉体に宿る 入山乙傘(長野県)

亡き祖母に「健全な精神は健全な肉体に宿る」と教えられて育ち、健全に真っ当に生きたいと願いながらも、犯罪に手を染めてきた主人公、という、よく考えてみれば重い設定を、深刻ぶらず明るく読者をのせていく力がある。文章のリズムやキレが良く、台詞や状況描写にも大きな違和感はない。報復、復讐、敵討ち、と、どう言い換えてもどろどろとした感情に、主人公がどう折り合いをつけていくのか、「探しものは何ですか」という「夢の中へ」の歌詞や、祖母が遺した言葉の数々も巧く効いていて、現代小説として楽しく読めた。

スマッシュイップス! 漆川丁々(三重県)

語りのテンポはいいが、安直すぎよう。少年少女向けの卓球雑誌(そんなものはないか)に向けて書いたような、ト書きのゲーム小説のような感じがある。もっと落ち着いて描写を重ね、主人公の心情を丁寧に掘り下げ、他者の思いを拾いあげてほしい。

未来の角度 エイジ(福岡県)

天体観測の趣味をもつ高校生の物語。天文部はないから地学部に入り、そこで人づきあいの苦手な面々と出会う。若い人が書いたものならわかるが、中高年がロマンティックな、悪くいうなら、いつまでも子供でいたいことを夢想する小説を書くのはあまり評価されない。

悪因悪果の忠臣蔵 江戸彬(神奈川県)

何を書きたいのかよく見えない。小説というよりは、ほとんどシナリオと感じた。情報を並べて、戯曲風に会話を続けたりするだけでは駄目で、もっと描写を厚くして、キャラクター描写にも力を注がないと小説とはならない。

両替屋伊蔵事件控え 尾川一城(兵庫県)

時代小説として違和感なく読ませるだけの基本を押さえた文章で、伊賀の忍びとして育った両替商という主人公の過去設定も悪くない。違和感や疑問もなく読み進めることができ、一定の水準には達していると感じた。ただ、時代小説は、こうした「型」に、どれだけ個性的な魅力を上乗せできるかだと思うので、そうした意味での物足りなさが残る。もう一歩進むには、時には情や義に走りながらも、そこを客観視して描く物語のなかの温度差のようなものが必要かと。

耕書堂蔦屋 小倉清孝(埼玉県)

蔦重こと蔦屋重三郎が経営する版元「耕書堂蔦屋」と絵師たちのドラマを描いた時代小説で、絵師たちや黄表紙のことなど、読んでいて知識が増える面白さはある。だが、説明が勝ってしまっていて、物語というよりはノンフィクションを読んでいるような印象と読後感があった。オリジナリティはあるので、あとは、これらの素材をどんなふうにドラマにするのかを練っていくといいのでは。

父娘行儀 勝木友香(東京都)

個人タクシーのドライバーがある夜ひろった女性は腕利きの小説編集者。担当作家とのこじれた関係をこぼしたことがきっかけで、そのドライバーと結婚し小説家として育てるがその彼は新人賞は取ったもののそれだけ。彼女はくだんの小説家のもとに奔り死んでしまうが、その彼女の一粒種となさぬ仲である父との絆を描いた、テレビドラマの定番のような作品。

ヤットサー! 加藤公星(大阪府)

「ああ、あるある、こういうこと」と身近に感じる題材である。何らかの理由で故郷から離れ、それでも故郷を捨てきれないことに共感できる。テーマがいいだけに、文章の稚拙さが非常に残念。会話文とは普通にしゃべる言葉とは違い、読む人がすぐ理解できるように書かなくてはならないもの。多すぎると話が進まず、著者だけの自己満足で終わる。長さの割に内容が薄く感じるのはそのせいかもしれない。

天正の龕 神侘恭子(東京都)

秀吉の備中高松攻めで、自刃した清水宗治の嫡男宗之を主人公にした物語。宗之は絵師になりたい一心で国元を出奔し、京に出てキリスト教の修道士と出会い、やがて信長の知遇を得る。選んだ人物やテーマは興味深いものがあるが、描写力やキャラクターはじめ、全般に厚みがなく、梗概で終始してしまった印象が残る。

坂下門 雁野史園(東京都)

非常に出版点数の多い幕末から維新にかけての小説で、公用人というあまり知られていない職業が興味深い。今でいう政策秘書のようなものだろうか。藩のため、お国のためでなく職業として必要とされるところへ行く、というのは面白い。関係性の吞みこみにくい諸外国の事情も、かなり整理されているので、物語にすっと入っていけた。だが結末が期待したほど広がらなかったのは残念。もう一段広い視野の小説が書けるのではないか。

ホーリー・ナイト 河村一誠(千葉県)

引退し、廃品回収業に転じた元暴力団幹部の男が、かつての組長の妻で男の幼馴染みでもある女の、末期癌治療に寄り添うことから動き出していく物語。ヒロインに魅力が薄く、組内の確執や因縁などが類型的で新鮮味が感じられなかった。末期癌の治療法も、よく調べて描かれていることは分ったものの、消化しきれていないような違和感が残る。あと、もうどうしようもないことかもしれないが、全体的に感覚がひと世代古い、という印象。

Bone to B 神原月人(東京都)

日本初のプロバスケットリーグがスタートするが、弱小チームのガンバーロ北海道は、選手の人数はギリギリ、資金も少なく成績は低迷と、すべてにおいて追いつめられていく。そんな中で頑張る選手たちの姿が描かれる。試合の模様や選手の様子、機微などしっかり書き込まれていて、一般的にはまだなじみの薄いバスケットボールのリーグを描いたものとしては目を惹いた。

豊臣秀頼——大坂城のハムレット 北博樹(東京都)

関ヶ原以後、豊臣滅亡までの徳川vs.豊臣のせめぎあいを、秀頼をハムレット、千姫をオフィーリアにあてこんで、そこに徳川・豊臣の重臣・策士をあれこれ登場させて――という趣向だが、これがなんともタラタラとしてメリハリがない。

JAZZの数え方。 吉祥みのる(東京都)

口語的な語りを駆使した文体が面白いが、ただそれだけ。軽快で、勢いがあり、ユーモアも醸しだされているし、けっこう新鮮な響きもあるのだが、いかんせん饒舌に流れ、作者自身が悦に入り、肝心のストーリー展開のキレを悪くしているし、着地が悪い。元ヤンキーの妻の存在をぞんぶんに生かして派手な展開にしたほうがはるかに面白かった。残念。

火薬庫の中の女 喬村卓(宮崎県)

物語の内容的に、主人公を三人称=「彼」と表記する効果があるとは思えず、かえって話をわかりづらくしてしまっている。異国のある意味特異な話であるのに、そうしたもってまわった表現のため、物語の背景が掴み難く、立ち上がりがもたついてしまい、読み手を牽引していく力に欠ける。舞台の転換も、シナリオのト書きのようになってしまっている。もう少し、物語全体のバランスにまで目を配ってほしかった。

ロード・トゥ・パングランゴ 久保瑠美(神奈川県)

何をやっても空回り気味な余生を持て余していた68歳の主人公が、ひょんなことから爺様パラダイス的居心地の良い喫茶店の常連となり、いつしか集団自殺の仲間となっていく物語。状況描写や会話文の多くが説明的すぎて表現が回りくどい。世の中から邪険にされつつある老人たちが集団で何かしらの行動を起こす、という展開自体に目新しさはないので、特異なエピソードや文章そのものに味がないと、一般の読者を惹き込めない。また、物語の肝となる後半の集団自殺事件そのものについて、もう少し掘り下げて欲しかった。

イラコ くわがきあゆ(京都府)

次々と自分の身に降りかかる不幸の連鎖。勤め先の社長の息子が自殺未遂を起こし、電車に乗り合わせた男性に酔いどめの薬を呑ませたところ死んでしまい、それらが自分のせいだと言われ、おまけに自宅は火事になり……とこの世の不幸を一身に背負ったような男への出来事が、一転して僥倖に変化する。という童話のごとき設定は面白いのだが、ひねりも何もないのが惜しい。「イラコ」という言葉の意味もどうだろう。

藁の上の子 河野史信(神奈川県)

父親の戦争体験を残したいという創作動機は立派だが、それにしてはストーリーに夾雑物が多すぎる。意外な事実も取ってつけたようで、後出しジャンケンのように思える。テーマは明確なのだから、それを表現するに相応しい物語は何かということを、あらためて考え直す必要がある。

天使のパレット 五月悠助(石川県)

真摯で優しいけれど、いかにも世界が狭く、ドラマにも乏しく、またひとりよがりで、観念的。ライトノベル風にもっと軽くするのか、普通の小説のようにもっと描写をつみかさねていくのか、作者自身、判断に迷っている節が感じられる。

免許伝授 小林克彰(東京都)

藤沢周平や葉室麟の愛読者だろうか、冒頭の描写など、いい意味での影響が感じられる。登場人物の描き方も、ちょっと定番を外したところがあり、主人公の遍歴中のエピソードを楽しく読ませてくれる。全体的に完成度は高いのだが、後は、自分だけが表現できると自信を持っていえる、物語の題材やテーマを見つけること。

朝顔 小林幸平(岐阜県)

維新を機に、人生が変わってしまった主人公たちを静かに描きつつ、時代に翻弄される人間の哀しさが描かれている。静かな筆致は魅力だが、たとえばかつての許嫁である加代とのドラマをもっと前面にだして強調するなど、もう少し読み手を揺さぶる強いものが欲しい。

羊羹の日々 小森まめ子(新潟県)

恋人と別れた26歳の女性が、田舎の村で67歳の老人と出会い、恋仲になる。思索的な筆致で話が進んでいくと、老人の不思議な行動や女性の過去の悲惨な経験が徐々に浮かび上がり、やがて現実と乖離した幻想譚めいた話になっていくのだが、すんなりと読み手を納得させる運びには足りていない。

聖アンデレのため息 小山ケイ(神奈川県)

ブログで架空の父親殺し計画を綴る留学中の主人公。果してその意図は? という話で、個性が感じられ興味深く読んだ。発想や物語の展開には独特の色がある。だが、ブログの形式をとっているから、という理由があるにせよ、全体的に冗長で読み飽きてしまう。説明的な表現を省く、緩急をつける、エピソードの要点を絞るなど、文章そのものを見直すと面白いものが書けそう。

Blinded 阪本喜子(滋賀県)

2004年のイラクを舞台に、合衆国海兵隊上等兵のアーニーを主人公として、「戦争」を描いた物語で、果てのない戦争の虚無感が描かれていて読ませる。ただ、映画とはいえ、2008年の『ハート・ロッカー』という先行作品があるため、どうしても既視感はある。

狂気乱舞 櫻井ひろし(神奈川県)

ひとりの男の成長、日本人の心、明治裏面史を描いた小説。いろいろな要素が盛り込まれているが、上手く嚙み合っているとはいえない。主人公の設定は面白かったが、読み進めるうちに、どんどん魅力を失っていく。もう少しエピソードを絞って、じっくりと書いた方がよかったと思う。

夢華に茶を煎る 五月野きつさ(岐阜県)

北宋時代を舞台にした中華ファンタジーで、作者自身が楽しんで書いていることが伝わってくるのがいい。ただし、読み手も書き手と同様に楽しめるかといえば、やや独りよがりな展開や強引な箇所があるため、作者ほどには楽しめないかも。吉祥と夜叉(行夜)のツンデレ感や、お茶にまつわるディテイルなど、筆力はあると思う

じょうちゃん 里中智則(兵庫県)

冒頭から夏目漱石『坊っちゃん』そのものの文体で、おれにキヨ、先輩教師ヤアマラシらが登場し、ならば「もじり」かといえばそうではない。村の住人や子どもたちとの交流の率直さ、「紛争地域」の子どもの写真から「追体験」して世界をわがこととして考える大切さを教えるキヨの授業を「平和教育」という作者の立ち位置がいい。

渦 座間佳祐(千葉県)

あの3・11後に任務にあたった海上自衛隊員が主人公。被災者が次々と海中から浮き上がってきて収容するさまが淡々と描かれる。おそらくは作者自身の実体験だろうと思われ、内容の重さ、痛ましさは十二分に伝わってくるが、小説としての滋味にはやや欠ける。

サーベルタイガーの左手 新堂陣(東京都)

東京都が突然「大阪都」に。東京都を取り戻すためのレジスタンスは、漫才で優勝し、大阪都知事にツッコムこと!? そんなアホな! という読者のツッコミを振り切って疾走する物語は、乱暴ではあるけれど、独特のパワーに満ちている。シリアスさとお笑いの濃淡をもっとくっきりとさせると、より強いインパクトが出ると思う。アイデアの斬新さはピカいち。

ラ・カンパネラ 須賀原晃(東京都)

独立行政法人・司法支援機構に勤める男性が広島へ赴任。そこで目にしたものは、弁護士たちの交通費過剰請求だった。彼は本部に上申するが、逆に訓告処分に。本部に戻ってからも孤立は深まり、リストラ部屋へと異動。やがて辞職し、妻とも離婚。そこで始めたのがお菓子作りへの挑戦だった。前半部と後半部の物語展開が、大きく変化するのをどう捉えるか。どこか中途半端な印象を受ける。

私の玉子様 鈴木寧(ドイツ)

第1部が40代の母親の視点。第2部が20代の娘の視点。ふたりの間にいるのが30代の男。要するにひとりの男を挟んで母娘が思いを寄せるさまを、それぞれの立場で語る物語。もうすこし現実感が感じられたら面白くなるはず。

松の露 諏訪宗篤(三重県)

主人公が郡上一揆にかかわる理由が、いまひとつ弱い。そのためストーリーに沿って動かされているように感じられ、キャラクターに思い入れできない。地の文章と会話で、接続詞の「でも」を多用しすぎ。こういうちょっとしたところで、作品の評価が下がってしまう。

円朝・オチの無い噺の謎 副島和昌(佐賀県)

三遊亭円朝の生涯を描いた一代記。幕末から明治にかけて彼を取り巻く家族や芸人、文人、政治家などとの関係が子細に描かれる。細部にも目が届いたそつがない作品。けれども、そつがないだけに弾けるところもない。小説としての艶や起伏が感じられなかった。

「にんじん」によろしく たかいちめい(石川県)

少女のころ、継母に虐待を受けていた主人公は、本を読むのが好きで、ルナールの『にんじん』に出会った。大人になって再会した継母は認知症であったため、主人公のことに気付かなかったが、彼女もまた『にんじん』に慰められていた――。継母の虐待は理不尽にしか感じられず、遺品のなかに『にんじん』を見つけたぐらいで、なぜ主人公が納得できるのかわからなかった。

バタフライ・エフェクター 高橋和古(山形県)

超能力者の特性を捉え、彼らの苦悩をよくまとめていると思う。力を制御する側と開放する側との闘いもよく描かれている。状況描写が非常に上手い。冒頭の事故シーンなど思わず引き込まれた。闘いの場面だけ切り取ると上手いのだが、会話にもうひと工夫がいる。状況説明のための会話が長すぎ、そこでせっかくの流れが途切れてしまう。もったいないと思った。

仮面の列 竹内恭子(東京都)

スターリンによる恐怖政治下のレニングラードが舞台。一世を風靡した詩人、アンナ・アフマートワと、秘密警察に夫を逮捕されたリージャとの心の交流を描いたもので、圧政によって理不尽に弄ばれる女二人の人生が切ない。ただ、アンナはもちろん、マヤコフスキー等々、実在の人物が描かれていることもあり、フィクションではなくノンフィクションで描いた方が良かったのでは。

鮫ヶ橋。彼岸遍路 武田純(長野県)

江戸の奉行ものと思いきや、ほとんど他国を知らぬ江戸者の道中日記ふう。さしたる事もなく岡嶋藩藩主と正室、側室の「三角関係」と跡目相続のゴタゴタが事件の原因とわかり、奉行の温情で藩にはお咎めなしと、何事もなかったかのような作者の「お裁き」に、読後なにやら肩透かしを食らったような気分であった。

証拠偽造/楠の木法律事務所事件ファイル 橘カオル(福岡県)

新米女性弁護士の奮闘記的、事件もの。主人公の職業に関する描写そのものはわかりやすくよく書けているが、主人公が直面した物事をそのまま描写しているような状態なので味気なさが残る。真面目で真摯な文章であるが、遊びがなく面白味がない。まだ30代前半の主人公らしい若さや勢い、あるいは青さや頑なさが文章で表現できるようになると、味わいが増すはず。特に地の文章の文体や表現を気にかけて。

狂信者どもの密か事 十五原征龍(石川県)

死んだ母親の生まれ変わりとして振る舞うことを、父親に強要されている少女という設定は、とても素晴らしい。だが、作品が作者の願望を叶えるための妄想レベルで、物語まで昇華されていない。語り口に妙な味があるので、もっと他人に読ませるということを意識すれば、大きく飛躍する可能性があるように感じた。

虎姫御流儀 豊国眞宝(ベルギー)

ギミックの多いライトノベルを書きたいのか、堂々たる伝奇小説を書きたいのかが見えない。人間関係が複雑すぎて、伝奇小説としての想像力の飛翔をさまたげているし、ヒロインのきりりとした武闘能力もすっきりしない面がある。

かなさん島唄よ 中川陽介(沖縄県)

主人公はアルバイトをしながら私立探偵業を営む男という設定。一人称記述なので、これは私立探偵小説となるが、ハードボイルド的なレトリックがなく、シニカルなところも少なくて、私立探偵小説としての魅力は乏しい。人情小説的なまとまりでラストは悪くないが、それだけでは330枚はもたない。

風のカムイ 中田祐史(岡山県)

落馬事故で負傷し、乗っていた馬を殺処分にしてしまったジョッキーが主人公。よく調べていることは敬服に値するが、全体的に説明調でストーリーの進行にブレーキがかかる。特に会話が良くない。また意味が取りにくい言い回しも散見される。主人公を含むキャラクターの造形にも不満が残る。

MELON・SODAと「小さな世界」 中野康幸(東京都)

当節話題の「人工知脳(AI)」プロジェクトの技術者の悲哀と、バックパッカーとしての旅の果てにたどり着いた北欧の国で妻子とともにカフェを営む男のささやかな幸せが最後にドッキングするという仕立て。SF仕立てというには、奇想もなければ盛り上がりもなかった。

真実の行方 夏川礼二(神奈川県)

元恋人を殺害したとされる女性の裁判をめぐるミステリー。法廷での逆転劇、さらにその先の逆転劇と二段構えの仕掛けがあるが、御都合主義と思える箇所が多い。魅力あるキャラクターが一人もいないのも問題。殴打された被害者が「塞ぎこむ」という記述が何度もあるのだが、「蹲る」ではないのか。

砂漠のエヘラ 夏生真晴(北海道)

放浪小説を描く場合、なぜ旅をするのか、誰と出会い、何を発見し、どんな風に成長していくのか、成長しないならどんな戦い(肉体的および精神的な戦い)を描くのかが重要。何よりも大事なのは主体的であること。その辺のポイントの押さえ方が弱い。だから、災難に巻き込まれて、ゆきあたりばったりに旅をするような印象になっている。

君に送る三十一文字のラブレター 七年青柿(東京都)

ダメ男の小説として面白く読んだ。だが徹底的にダメに書けず、どこかで救おうとしているのが、ラストシーンの迷いになったのだろう。どんでん返しの小説は面白いが、この終わり方はいいと思えない。短歌や俳句を使う時は、それが好きな読者が手に取るのだというのを肝に銘じたほうがいい。消化不良でイライラした。文章は読みやすく人物の書き分けも上手いが、題材にもう一考する必要があると思う。

不滅の法灯 成田季現(千葉県)

最澄が比叡山にもたらした不滅の法灯が信長の焼き打ちで消失し、その分灯を取りに行く、というロードストーリーはわくわくさせられた。途中で出会う大泥棒とのバディストーリーとしても読ませる。ユーモアの活かし方も上手い。ただ、全体的に山場が少なく淡々と進んでしまうのは残念。少年時代のエピソードとの順番を考え直したらどうだろう。

鰐と啄木鳥 灰田雨土(大阪府)

目に見えるものがすべて動物に見えてしまう、という発想がユニークで思わず引き込まれる。発達障害を扱っているが、とても気を使った扱いは好感が持てる。だが主人公の見る世界と普通の世界との書き分けがはっきりしておらず、読み手が混乱をきたす。多視点の小説、とくに本作のように景観まで変わってしまう場合は、読者に対する慎重な配慮が必要だと思う。

一休・骸骨 萩原彰彦(神奈川県)

平然と人殺しを行う群盗の頭が、一休と出会ったことで「弟子」となる。村人に捕らわれ、鼻と耳を削がれ、悪も為さず善も為さずという教えを胸に、乞食行脚をしていく。前非を悔いることすら禁じられた男の遍歴を描く。カタルシスを求めるエンターテインメント小説ではないが心に残る。「僕」という一人称を使う理由はなんなのか気になる。「やつがれ」と読ませるのだろうか。

プルスウルトラ 橋本利一(千葉県)

青年ジョッキーを主人公にした青春&生産馬小説。主人公のジョッキーの物語にするのか、生産馬の物語にするのかを絞り込んだ方が、物語が強くなったのでは。文章は読み易いが、女性の登場人物の話し言葉が作り物すぎている。全体として真っ直ぐで陽性な物語であることは魅力。

難馬黒鉄と平下征五郎 長谷川辛之(東京都)

関ヶ原の戦、前夜、日向の伊東飫肥藩の藩士征五郎は軍功により、殿の馬を拝領した。これが何人も乗せない稀代の悍馬であった。頑迷で愚かでプライドだけが高い征五郎の人間性が良く描けている。後半にある境地に至るまでの流れも自然で感心した。やがて馬と心を通わせ、藩の危機に及んで人馬もろとも大活躍するシーンは胸を打つ。年齢の割に古風な文体はやや読みにくいが、地味な題材を果敢に取りあげた点は好もしい。

雨があがる 初瀬みのり(東京都)

戦前から戦後へとつながる激動の昭和の時代に生きた、ひとつの家族の物語が、実に過不足なく描かれている。キャラクターがひとつの役割になくて、時代と物語によって変化していく様もきちんと捉えている。脇役(義母となる女性など)も癖がありつつも、隠された思いをひねった形で提出していて悪くない。新鮮味に乏しいが、安定感のある作品だ。

女一貫・営業らいふ 葩予十愛(東京都)

PMS(月経前症候群)に悩まされて10年、産婦人科に通い続ける主人公は、外資系原料メーカーの営業部勤務、37歳、女としては崖っぷち、ぎりぎり。圧倒的な男社会に居場所を得ようとすれば、スカートをはいた男になるか従順な女らしさで勝負するしかない現実に立ち向かう「女子力」を語った、「自分」の現在的物語だけに、文章に力がある。

指先に触れるもの 原洋一郎(東京都)

スリの男の娘が誘拐され、男は昔の伝手を頼って、元詐欺師の大物に手助けを頼む。スリを行う場面の描写力には引き込まれた。しかし娘の誘拐に至る妻の話に、誰もが引っかかりを覚えるが実は狂言だった、というもっとも安易な方法で物語を終わらせてしまう。下手な夢オチと等しい最低最悪の結末である。このキャラクターの特技と誘拐という設定を使えば、面白い物語が作れるはず。

TOO HOT 光一(大阪府)

大学の柔道部を舞台にした、きわめてオーソドックスな青春スポーツ小説。ここで描かれるのは柔道が好きで好きで仕方ないという若者の心情ではなく、柔道は嫌いだけれども、柔道部が好きになったんだという自分でも理解できない感情だ。若者たちの熱い、暑い、アッツイ思いを爽やかに健やかに清々しく描いている。文章も悪くないし、展開も実に巧みで、どんどんと引き込まれる。

谷崎に恋した女 平山崇(埼玉県)

中国文化大革命時代に生きた農村の女性の生涯が描かれる。農民には学問はいらないと言われながら高校に進学し、そこで谷崎潤一郎の文学と出会ってある目覚めが訪れる。やがて日本語教師との邪恋、天安門事件など激動の中国で自己を貫いて生きた女の一生が語られていく。地方の農村の状況が実に詳細に描かれており、その意味では現代中国の農村文学と称していいかもしれない。

雪の子 深田馨(福島県)

非常に若い書き手にしては、一見整った文章で書くことに対する意欲や誠実さが感じられる。だが、基本的にはまだ自分の頭のなかにある特異な世界を、読者に伝え、魅了するだけの力がない。ファンタジーの世界を構築し、物語の世界に引き込むことはそう容易くない。自分がいちばん描きたいことが何なのか。物語の世界観なのか、主人公の苦悩と葛藤と成長なのか、絞り込んで煮詰める努力を。

ボレロ 干田貝(東京都)

吹奏楽部でトランペットを受け持つ高校2年生が、全国大会出場をめざして、ラヴェル作曲「ボレロ」をより完成させるために、教師を抱き込んで暴走する――。吹奏楽部で全国大会出場をめざす高校生群像という話は最近流行りだが、この種の話が魅力あるものになるかどうかは、読む者の心に合奏する「音」が聴こえてくるかどうかだろう。ここでは「ボレロ」は聴こえてこない。

火群 蒔田董子(東京都)

まだ小説を書きなれていないのか、全体的に話がノッペリとしている。冒頭は主人公が火消に憧れる場面から始めるべし。父親の一件を最初から明らかにしてしまうのは、物語的にもったいない。クライマックスは、もっと書き込むこと。パタパタと終わらせてしまい、肩透かしだった。

砂の人魚 牧村航志(千葉県)

3年前、水難事故で行方不明になった主人公は、村に伝わる人魚伝説のいうように人魚に連れ去られたのか? 民俗学的興味をそそる設定だが、「海に消えた村人が人魚になって生きている者たちを見守っているのだ。だから生きている者は亡くなった者に感謝すべきだ」というのが村人たちの「世界観」であり、実際に人魚が現れる終わり方は、メルヘンというには生臭く未消化だった。

桜章大学剣道部物語 巻屋隼(群馬県)

タイトル通りの作品。2年上の剣士に憧れて同じ大学の剣道部に入部した青年の1年間を描く。手あかのついた題材かつ予想通りの展開である。文章力と剣道の描写がそこそこあるので、とりあえず読めるが、キャラクターの書き分けがほとんどできていない。主人公一人の視点で進めるべきなのに、最後の方になってそれも乱れてしまうのが、さらに残念。

〈新版〉桃太郎 まさ(愛知県)

過疎の村に住む老夫婦が、川から流れてきた桃を食べると、70歳を超えたお婆さんに子供が生まれ、野球少年となり、大リーグの選手となった。けれど足腰が悪い老夫婦には移動手段がなく、なかなか会えないのだった。そこで息子は自動運転の自動車メーカーを立ち上げ、これを見事に成功させるのだった。まさにこれぞ現代版お伽話だが、評価不能。

S字峡の道標 丸山和大(福岡県)

山岳ミステリーというジャンルそのものに新味はなく、やるとしたら何らかのプラス要素が求められるが、本作にはそれがなかった。また、ストーリーの展開のために人物を動かしているため、違和感を覚えるところが幾つかあった。大きな欠点はないが、飛び抜けた美点もない作品。

悪党~忠鬼~ 三浦嘉之(埼玉県)

地の文の語り口が伝法なところ、時代小説の定石を外しているところは、読み手によって好き嫌いが分かれるところだと思うし、この作品の評価そのものが分かれるところだとは思うが、その「衣装」をはいでしまえば、ごくシンプル。犯人を庇って、あろうことか自分が犯人だと名乗り出た秋山と、そもそもの犯人に対してとった鳥居耀蔵の始末の付け方に、この作者のオリジナリティと資質を感じる。

外崎 三城暢乃(愛知県)

空襲で母が死に、そのとき光の玉が自分(息子)の体の中に入ってくる。そこへ半鬼半人の老人がやってきて、母親の故郷の外島へ連れていくという物語。ファンタジーで最も大切なことは、この世ではない世界の「世界観」である。作品上には現れなくとも、その社会の仕組みやら経済やらをしっかり構築していることが重要。だが、この作品にはどうもそれらが感じられなかった。

涙で育つ花 水野美歌子(東京都)

親友の姫香に恋人ができるたびに、その恋人をこっそり奪い取って来た雪香。銀座のトップホステスで美貌の雪香が愛するのは、姫香だけだった――。いわゆるフレネミー(友人の仮面を被った敵)ものだが、登場人物たちの思考が25歳という設定年齢より幼く、物語の世界とうまく噛み合っていない印象が残る。

死んだ青年Sのつぐない 南銀杏(福岡県)

近未来の日本を舞台に、1000人に1人の確率で生まれるという天才児NGCが集う大学に通う主人公の物語。大学の卒論に、青と赤がある、というのはいいのだが、なぜその2つがあるのか、説得力が弱いため、物語が脆弱になってしまっている。

尾美作左衛門の涙 蓑修吉(宮城県)

小藩の中間管理職で、家督を息子に譲るのもそう遠くない善良な役人が巻き込まれた事件を丁寧に、つじつまもきちんと合わせて描き出した。最後まで一本芯が通っており、好感のもてる作品であった。著者には好きな作家がいて、そのような世界観を出したいと強く思っていることもよくわかる。だが物足りない。時代小説がこれだけ隆盛であるいま、オリジナリティをどこか身に着けてほしい。本書では次男がカギになるような気がした。

モグラ讃歌 宮内真理(埼玉県)

医学部4年生の物語。薄暗い眼科診察室の中で、モグラのような日々を送りながら、初めて知る「眼」の世界の神秘、研修医への淡い恋心、指導医に対する尊敬。起伏は少なく、驚きもない、当たり前の日常が当たり前のように過ぎていくさまが、日記のような調子で描かれていく。刺激はないが、全編に漂うゆったりとした穏やかさが心地よかった。

娘瓦版 青春ぐらふてぃ 宮下ゆう希(東京都)

冒頭のエピソードの描き方が宜しくなく、ヒロインの文と友人の光が、わがままで生活感もなく、感情移入できなかった。また、ストーリーの方向性が、なかなか見えてこず、それでも読ませるだけの物語の魅力がいささか足りなかった。ヒロインがメインの事件にかかわるモチベーションも、もう一考が必要。

籠城101日 武藤吐夢(兵庫県)

戦国時代を舞台にした籠城戦の物語。元役者の日誌から101日間を再現したというスタイルで、物語の途中で突然「私」が出てくるからリズムが崩れる。全体的な目配りもいいし、波乱にとんでいるしまとまってはいるが、強烈な魅力がない。いきあたりばったりで話がうまく行き過ぎるご都合主義的な部分も気になる。軽い筆致はいいが緊張感が醸しだされていないのも問題。「戦さ」「噂さ」などの表記も気になった。

言葉の向こう、金網の先 村木祐(神奈川県)

負け犬男女の再生物語。文章も人物造型も、一定水準に達している。ただ、女子格闘技という題材を除くと、ストーリーが凡庸だった。主人公のトラウマから何から、すべてどこかで見たり読んだりした気がする。最後の闘い以外の、格闘描写の熱のなさもマイナス。こここそ、主人公の感情に寄り添うべき。

ひでこの盤 民謡馬鹿物語 本木源(東京都)

売春禁止法施行後の吉原にある民謡酒場の主人が、戦争中に作られたSP盤の謎を追う。この設定が抜群だった。文章やキャラクターもこなれており、時代の猥雑な空気も感じられる。作者の意図とは違うかもしれないが、ミステリー作品として楽しむことができた。

マスク・ド・ファイヴの青春 森内優希(福岡県)

覆面姿のロックバンドが主人公。反省のない若者たちの無軌道ぶりはみもの。また武者修行と称して全国を旅する間に、ドMナンバー1を決める耐久レースや将棋の闘いなど、小説ではなくコミックかと思わせるノリの場面が何度も登場する。そんな彼らが紅白歌合戦、武道館、そして東京ドームを目指していく。あまりにも現実離れしたハチャメチャぶりに引いてしまう人もいるかもしれないが、引き締めるところはきちんと締めて、胸を熱くする場面も多くある。好みが激しく分かれるだろう作品。

任俠町おこし 矢代正幸(東京都)

「社会的弱者が力を合わせて助け合えば幸せに暮らせる」、「弱者による弱者のための町おこしをスタートさせる」がテーマの物語。戯画化されているとはいえ、いわゆる下層貧民が現存社会からは独立した社会観をもって創り上げる共同体がある。主人公らのこの試みは現存社会の価値観を受容しているものには反逆とみえるかもしれないが、自分たちの価値観とは違ったそれを発見させるだろう。

パイライトの恋人たち 夜野晶(東京都)

兄弟間のコンプレックスを話の発端に持ってきたのは、読み手には感情移入しやすいと思う。現代が抱える問題を内包しているのも、作者の問題提起としてわかりやすい。しかし青春小説でタイムパラドックスという仕立てが、あまりにも先行の作品と似ている。もちろんその作品を凌駕していれば問題ないが、残念ながらそこに至っていない。

ザーツ・ルック・ソーシャル・バッツ やぶいぬ(佐賀県)

文明が崩壊したバイオレンス世界という設定のエンターテインメントは、たくさんあり、この作品もそうした既存作品の表層をなぞっただけの物語に感じた。世界観に乏しく、キャラクターは薄っぺら。アイディアでもテーマでもいいので、自分だけの何かを発見してから、新たな作品に取り組んでほしい。

うえからしたまで 山内周祐(愛知県)

寿命測定という設定に、無理がある。ちょっとした説明だけでは、まったく納得できない。物語も、前半と後半の繋がりが悪く、前半の映画館の話を膨らませた方がよさそうだ。応募原稿は横書きではなく、縦書きにすること。ネット小説ではなく、書店で売っている本を参考に。

エンペラーズ・ホテル 山田悠仁(神奈川県)

帝国ホテル新館建設をめぐる、設計者ライトと依頼主林愛作の物語。実在する人物を中心に描く評伝小説の場合、「史実」とそこから逸脱する「創作」の度合いが難しい。参考図書から得た知識を、作家の想像力でキャラクターなりエピソードなりをもっと発酵させないと、あえてフィクションで読まねばならない意味が見いだせない。無理やりにメロドラマを作ろうとしたせいか、不自然な設定と、到底納得できない心の動きをする人物たちが目立つ結果となった。

床下系女子、本日も募集中! 山本こじか(東京都)

女子の新ジャンルとしての「床下系」。地下系、地味系の一種かと思いきや、ある意味ガツガツした貪欲な部分もあり、設定としては面白い。文章的にも大きな疵もなく、すらすらと読ませる。ただ、言い換えると設定+出来事勝負になっていて、読後残るものがない。掘り下げた考察と、よりリアルで切実な心情描写が欲しい。文章の表現も全体的にちょっと「古い」感じがある。いずれにしても、もう一歩という印象。

フロレセント 吉沢真郎(東京都)

高校生の超能力者(異能周縁者)と古代文明、そして武装集団と仕掛けが大きく、スケールの大きな小説だった。このテーマを書くのに、残念ながら技量が伴っていないと感じた。著者の頭の中では繋がっているのだろうが、読者は、誰が何をして、誰と誰が話しているのか混乱してしまいストーリーを追いきれない。持っている世界観が魅力的なだけに惜しいと思う。

幕末ダウンタウン 葭森大祐(東京都)

幕末を舞台に、新撰組の隊士・濱田精次郎が、女芸人の松茂登とお笑いコンビ「四条ダウンタウン」を組み、新たな一歩を踏み出して行くまでを描いたもので、発想の斬新さ、オリジナリティが光る。ただし、文章全体に誤変換が目立ち、粗もある。技術的な面での課題はまだまだあるものの、面白い話を書きたい! というエンタメ精神が真っ直ぐに伝わってくる。

眠れない人々 夜見方ルビ(愛知県)

AIを使う近未来小説では、虚構の世界で生きる人々がよく登場する。本書もそれがベースとなっているが、虚構の世界があまりにも幼い。AIの部分が緻密で面白いだけに、少女マンガを文字に起こしたような部分にひっかかってしまう。パラレルワールドものは、読者がその世界に入っていけるかで決まる。作者だけの独りよがりになっていないだろうか。

ネカフェナース 李周子(埼玉県)

ネットカフェを転々として暮らす派遣ナースがヒロイン。介護家庭の人間たちの傲慢さ、いい加減さ、だらしなさなどが描かれ、いわゆるイヤミスに近い雰囲気がある。明るさや希望の灯などほとんど見られないが、その暗さに引きずり込む力を感じる。

梟雄の忠義 竜崎蒼(神奈川県)

斎藤道三、宇喜多直家と並び、戦国時代の三大悪人にあげられる松永久秀(弾正)を、三好長慶の忠臣として描いた時代小説。同国人の誼で頼った斎藤道三から仕官の口を断られたあと三好長慶と出会うまでの導入部分から、読み手を物語にぐいぐいと引き込んでいく。所々に粗もあるが、読ませる。